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米国の社会をいま不法入国者の大量流入が混乱させている。大統領選挙戦をも揺るがす。しかしそんな激流のなかで米国がなお伝統ある移民国家だと改めて実感させられた。ベトナム系米国人の女性医師アリーン・グエンさんからの寄贈本が首都ワシントンの自宅に届いたからだった。
私はアリーンさんの両親であるデ、ニュン夫妻を半世紀前の戦火のベトナムで知っていた。米軍が去り、南北両ベトナムが南ベトナム(旧ベトナム共和国)領内で激しく戦っていた。1974年1月のそんな時期、サイゴン(現ホーチミン市)駐在の特派員だった私は南領内で北側の革命勢力が支配する地区への潜入取材を果たした。革命勢力が日本人記者をひそかに招き、自陣営の統治を誇示することを図ったのだ。
中部のビンディン省の山間地帯の革命地区で10日ほどを過ごすうち、デ・グエン医師に会った。本来、南側の内科医だったデさんは実は革命側の捕虜となり、医師としての活動を命じられていた。私はその実情をサイゴンで知己を得た彼の妻で小児科医のニュンさんから聞き、知っていた。
筆者:古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
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2024年3月22日付産経新聞【緯度経度】より