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欧州の人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」は、中国が10年間で国外在住の約1万2千人を強制帰国させたとする報告書を発表した。対象者リストには、日本にいた3人が含まれている。報告書は帰国を迫るために威嚇や拉致など「主権侵害にあたる違法な手段」が多用されていると警告した。
当局、家族通じて圧力
中国公安部は2014年、海外に逃亡した汚職犯の拘束を掲げて「キツネ狩り作戦」を始めた。しかし、実際にはその範囲を逸脱し、中国共産党に批判的な活動家やウイグル人、チベット人を強制帰国させているとみられている。報告書は、中国の公式発表や報道により、120カ国・地域から1万2千人が強制帰国したと算出し、名前が確認された283人を公表した。
このうち、日本への逃亡者は2人いた。1人は内モンゴル自治区出身で2015年に来日。17年に帰国した。もう1人は21年の帰国まで、日本に9年間潜伏していた。中国の報道によれば、2人は汚職や密輸の容疑者という。ともに「説得に応じて帰国」し、逮捕された。家族を通じて電話やメッセージで当局から圧力を受けたとみられている。
報告書はこのほか、中国が公表していないケースとして、元在日留学生のウイグル人女性に言及した。19年に帰国したミヒライ・エリキンさんで、欧州に住む人権活動家のおじの証言や中国国外の報道で明らかになった。
帰国後死亡 家族に「口外なら収監」
エリキンさんの父親は新疆ウイグル自治区の強制収容所に収監されており、当局は母親を通じて帰国を迫ったとみられている。エリキンさんは故郷に戻った後、収容所に収監され、20年11月に死亡したことが判明した。当局は葬儀翌日、家族に対し、死亡を口外したら「国家機密の漏洩」「警察侮辱」の罪で収監すると威嚇したという。
報告書は、エリキンさんを含め、外国の報道や人権団体の調べで62人の強制帰国が判明したとしている。
報告書の執筆者で同団体のキャンペーン局長、ローラ・ハースさんは「エリキンさんのケースは、国外で体制批判を続けるおじの口封じを狙ったもの。家族を痛めつけ、精神的苦痛を与えることで罰しようとした」と指摘。そのうえで、中国当局は国外在住者に仲間の情報の密告を迫ったり、「家族のことを考えろ」と威嚇したりして不安を煽っていると述べた。
筆者:三井美奈(産経新聞)