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中国政府による補助金支援を受けて過剰生産された製品が、国内からあふれて海外に安価で輸出される。これが市場競争を歪(ゆが)めているとして中国が欧米から指弾されている。
バイデン米政権は中国製の電気自動車(EV)への関税を4倍に引き上げるほか、太陽光パネルやリチウムイオン電池などにも制裁関税を課すと発表した。
欧州連合(EU)の欧州委員会も中国製EVなどを調査しており、状況によっては対抗措置を辞さない構えである。
今後、欧米と中国が報復関税をかけあう展開となれば、世界経済の混乱や停滞を招きかねない。強硬な措置を講じた米国はもちろん、中国においても、保護主義の高まりが望ましくないのは言うまでもない。
ただし根本的な問題は、中国の貿易慣行が不公正だとする各国の疑念に向き合わない習近平政権の姿勢にある。習国家主席が欧州歴訪で「中国の過剰生産能力問題というものは存在しない」と語ったことは理解しがたい。頑(かたく)なな姿勢を改めなければ欧米との対話も成り立つまい。対立は長引くばかりだろう。
習政権が直視すべきは自国産業の構造問題だ。中国は経済の鈍化が顕著で、国内需要が低迷している。一方で企業の生産意欲は強く、需要に比して供給能力が過剰だ。このため輸出で帳尻を合わせる構図である。
さらに不透明な補助金の問題がある。これまでも中国は、補助金を出す際に求められる世界貿易機関(WTO)への通報義務を守らず、輸出に関わる補助金の実態を隠してきたことが問題視されてきた。かつて世界の鉄鋼業界が、補助金を受けた中国企業の安値輸出で打撃を受けたこともある。今も同様に海外企業の経営や雇用を揺るがしているならば批判も当然だ。
一方、バイデン政権の今回の措置には大統領選に向けて雇用創出や対中強硬姿勢を訴える政治的思惑もあろう。国内法で一方的に追加関税を課す手法はトランプ政権時にもみられ、日本も鉄鋼などへの追加関税を強引に課された苦い経験がある。
日本はこの点も踏まえつつ欧米と連携し、中国の不公正な貿易慣行を正していくべきだ。中国の過剰生産問題は日本企業の経営にも影響を及ぼす。あらゆる機会を捉えて中国側に改善を迫らなくてはならない。
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2024年5月19日付産経新聞【主張】を転載しています