~~
国土交通省は6月3日、自動車などの量産に必要な「型式指定」の認証申請に関し、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの5社に内部調査で不正行為が見つかったと発表した。不正があった現行生産の6車種について出荷停止を指示した。4日に道路運送車両法に基づき、愛知県豊田市のトヨタ本社に立ち入り検査を実施。他4社も順次検査に入り、行政処分を検討する。
国交省によると、現行生産車ではトヨタが「カローラフィールダー」など3車種、マツダが2車種、ヤマハ発動機がバイク1車種で不正があった。3社は過去に生産していた車種でも不正が判明。ホンダとスズキは過去生産車のみで不正があった。トヨタでは内部調査が続いている。
今回、不正が見つかったのは5社で合計38車種におよぶ。国交省は「ユーザーの信頼を損ない、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為で、極めて遺憾だ」と強調した。
トヨタとマツダではエアバッグの作動試験で本来、衝突時の衝撃をセンサーで検知し、自動でエアバッグを作動させる必要があるにもかかわらず、タイマーで作動するように設定し試験を行っていた。ヤマハ、ホンダ、スズキには試験成績書の虚偽記載などが判明した。
国交省はトヨタグループのダイハツ工業や豊田自動織機に不正が相次いだことから、完成車メーカーや装置メーカーなど計85社に過去10年分の型式申請における不正の有無の内部調査と報告を指示していた。5月末時点で68社から回答があり、5社以外での不正の報告はなかった。トヨタを含む残りの17社は調査を継続している。
◇
経済に下押し圧力 規定とメーカーの安全意識にギャップ
トヨタやマツダなど5社で新たな不正行為が発覚したことは、車の品質を裏付ける認証制度の信頼性を揺るがす事態だ。各社はそれぞれ安全性には問題ないとしているが、現行生産車で不正があったトヨタなど3社が対象車種の出荷・販売を停止するため、経済活動への下押し影響も避けられない。
トヨタは豊田章男会長が同日記者会見し、ダイハツに続き、トヨタ本体でも不正が発覚したことについて「残念だ。トヨタも完璧な会社ではない」と述べ、再発防止策に関し「責任を持って推進していく」とした。
不正のあった3車種の昨年の販売実績(登録ベース)は「カローラフィールダー」が約1万3000台、「カローラアクシオ」が約7000台、「ヤリスクロス」が約10万台に上る。国土交通省による安全性の確認が完了するまで出荷・生産は停止するため、販売や関連の部品取引に影響が及ぶ。
同様に現行生産の2車種で不正があったマツダは、3日会見した毛籠(もろ)勝弘社長が約3500件の受注があるとし、出荷停止で「(顧客に)迷惑をかけることをおわびする」と述べた。
ダイハツの認証不正では同社の全工場が稼働停止し、1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値が2四半期ぶりのマイナス成長となる要因となった。
今回の不正で各社の出荷停止が長引いたり、認証制度の信頼性の低下が、消費者の新車購入意欲の減退につながったりすることがあれば景気に打撃となる恐れがある。
一方、国内自動車メーカーで認証不正の発覚が相次ぐのはなぜか。トヨタなどの会見でみえてきたのは認証ルールとメーカーの車両開発現場の安全意識との乖離(かいり)だ。技術的には安全との考えから認証プロセスを適切に守ることが現場に徹底されず、ルールを自己流で解釈。法令順守の意識が薄いまま、業務の効率を重視した可能性がある。
発覚した不正のうちトヨタのケースでは、歩行者の頭部および胸部保護試験で法規の衝撃角度(50度)より厳しい65度で実施した試験がルール違反となった。マツダの衝突時のエアバッグに関する不正試験は、規定の方式に対して乗員保護により精緻なデータを収集できるとの判断で行った方法だった。認証プロセスとメーカーの開発現場の考える安全について、豊田会長は「ギャップはある」と認める。
たとえ国の基準より厳しい試験であっても法令を守らなければ日本の車両安全の信頼は崩れる。 メーカーには認証制度の重さを再認識するとともに、安全意識のギャップを解消して制度の信頼と質をより高めていく姿勢が求められる。
筆者:池田昇(産経新聞)