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日本製鉄の半世紀にわたる中国事業
日本製鉄は宝山鋼鉄との合弁会社、宝鋼日鉄自動車鋼板(BNA)を2004年に折半出資で設立した。今回、2024年8月29日の経営期間満了をもって、保有するBNA株を宝山鋼鉄に売却し、合弁を解消する。BNAが手がける鋼材生産能力は、日本製鉄の中国での鋼材生産能力の約7割を占める。
日本製鉄は約半世紀前の1977年、経済発展を目指す中国政府から要請を受けて、中国初の近代製鉄所となる宝山製鉄所の建設に技術協力したもので、日中経済協力の象徴のひとつでもある。21世紀に入り、中国で自動車産業が急成長するのに伴い、日本製鉄と宝山鋼鉄に加えルクセンブルクのアルセロール(現アルセロール・ミタル)の3社で2004年にBNAを設立した経緯がある。
中国の自動車産業の構造変化の影響
中国の粗鋼生産力は21世紀に急成長し、全世界の粗鋼生産量の過半数を占めるようになる。生産能力向上だけでなく、技術力も向上し、自動車用鋼板も手掛けるようになる。さらには、中国では電気自動車(EV)への構造シフトが急展開した。
【2023年世界の粗鋼生産量 世界鉄鋼協会調べ、万トン】
- 世界全体:18億9200
- 中国:10億1910
- インド:1億4080
- 日本:8700
- 米国:8140
中国政府はEV自動車普及策として充電インフラの拡充や購入の補助金制度を大規模に行い、EVメーカーも100社を超えるなど競争が激化した結果、供給過剰に陥った。その結果、現地では価格競争も激しく、低価格の中国車に押され日本車の販売は苦戦している。
技術をめぐる摩擦も
日本製鉄は自動車向けの高級鋼(ハイテン)やEVのモーターに使う電磁鋼板というハイエンド製品に強みを持つ。ところが、2021年には宝山鋼鉄が電磁鋼板技術で日本製鉄の特許権を侵害したとする訴訟問題に発展してしまう。中国の経済発展とともに事業リスクも増大している。
事業を見直す日本製鉄、日本企業
日本製鉄は構造改革と合理化、海外事業の拡充という中長期経営計画を進めている。「グローバル粗鋼生産能力1億トン」という目標も掲げる中、インド、ASEAN、米国の3地域を重点地域としている。価格競争などで不採算の中国事業を見直し、最大の高級鋼材需要国の米国やインドに経営資源を集中する選択をした。
中国事業の見直しは日本製鉄だけでなく、ホンダや日野自動車、ブリヂストン、帝人などの自動車関連企業が事業の縮小や撤退を明らかにしている。一方で、モーター最大手のニデックは中国での価格競争に巻き込まれないように注意を払いながら中国事業を続けている。
USスチール買収に向けた布石
また、7月20日には、トランプ前政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏を日本製鉄のアドバイザーに起用したことも報じられている。ロイター通信は「日本製鉄のUSスチール買収により、米国の経済と国家安全保障が強化されることをさらに強調するため、ポンペオ氏とともに働くことを楽しみにしている」という日本製鉄のコメントを報じた。
筆者:海藤秀満(JAPAN Forwardマネージャー)