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日銀が7月31日の金融政策決定会合で、政策金利である短期金利の追加利上げと長期国債の購入額についての具体策を同時に決定したのは、賃上げが広がり、6月に始まった定額減税や夏の賞与が個人消費を下支えして景気を冷やすリスクは低いと判断したためだ。日銀は経済・物価情勢を入念に点検しながら、次回の9月会合以降でもさらなる追加利上げのタイミングを探ることになる。
植田和男総裁は6月の記者会見で7月会合の追加利上げについて「経済・物価情勢に関するデータ次第で、当然あり得る」と発言。日銀内では、令和8年度までの物価上昇率の見通しが想定通りに推移しているとし、「いつでも追加利上げができる状況」との見方が共有されていた。小さい利上げ幅なら消費の腰折れリスクは低いと判断したとみられる。
令和6年春闘の賃上げの広がりも、追加利上げの判断を後押しした。
連合が公表した最終集計結果によると、基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた平均賃上げ率は前年比1・52ポイント高い5・1%と、平成3年以来33年ぶりに5%を上回る高水準となった。
日銀が7月8日に公表した地域経済報告(さくらリポート)では、地方の中小企業へも賃上げが波及しているとの指摘が目立った。
賃上げがデータに反映されるのには一定の時間がかかるとされ、物価変動を考慮した実質賃金も夏から秋にかけてマイナスからプラスに転じるとの見方が有力だ。
個人消費は物価高で力強さを欠き、実質国内総生産(GDP)では今年1~3月期まで4半期連続で前期を下回ったが、日銀幹部は「個人消費は下げ止まっており、賃金が実際に上がってくれば、そのまま崩れるということはない」と確信する。
筆者:宇野貴文(産経新聞)