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トランプ次期米大統領は、インフレなどで現政権を批判し、経済政策を抜本的に改める姿勢を示してきた。
米国を再び偉大にするには経済を強化するしかないとの思いが強いのだろう。中国の台頭で世界経済における米国の影響力が相対的に低下する中、国内産業を再興し雇用を守ることは重要だ。
だが、現政権の政策をことごとく否定する言動は危うさもはらむ。自国第一主義の下、中国はおろか西側諸国にも関税などで経済的圧力をかけようとする姿勢も相変わらずである。
日本を含む各国は新政権がもたらしかねない世界経済の混乱や分断に備えねばならない。
石破茂首相は7日、トランプ氏と電話会談し、日米同盟を高次元にする考えで一致した。日米は中国などの専制主義国を念頭に経済安全保障上の連携も深化させなくてはならない。
そのためにも米国が内向きにならぬよう働きかけるべきは当然だが、トランプ氏は同盟の意義以上に経済実利を優先しがちだ。日本の官民はそれを前提に対策を講じる必要がある。
トランプ氏は法人税や所得税の減税などを掲げている。中国からの輸入品への高関税だけでなく、その他の国にも10~20%の関税を課す考えも示した。ただし、これらがトランプ氏の嫌うインフレや円安ドル高を助長しかねないことを懸念する。
自動車などに軒並み高関税が課されれば日本企業の北米戦略に重大な影響を及ぼそう。日本は前回のトランプ政権時、安保上の懸念を理由に鉄鋼などに高い関税をかけられた。トランプ氏は今次の大統領選で、台湾に関し「米国の半導体ビジネスを盗んだ」と批判したことが米メディアに報じられた。
こうした動きが強まれば米国と各国の結束を揺るがすことになりかねない。当面の焦点は日本製鉄によるUSスチールの買収問題だろう。トランプ氏はこれに反対してきたが、理不尽な買収阻止は問題である。
米国主導で設立したインド太平洋経済枠組み(IPEF)の不支持も撤回してほしい。トランプ氏はかつて環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱したが、政権につくたびに離脱を繰り返すようでは地域内での米国の信頼は失墜しよう。それがどの国を喜ばせるかをトランプ氏は熟慮すべきだ。
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2024年11月8日付産経新聞【主張】を転載しています
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