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「日韓関係が変われば世界秩序が変わる」―。日韓関係が戦後、最悪と言われるほどに冷え込む中、こんな大きな目標を掲げた韓国の名門私立大学、延世(ヨンセ)大学の権聖主(コン・ソンジュ)教授(46)が今月上旬、日本進出を目指す韓国の若手起業家たちと来日し、日本で初となる研修を行った。民間ビジネスの力で、日韓関係は改善できるのか―。講義を聞きに行った。
延世大、初の試み
渋谷駅に隣接する真新しいガラス張り高層ビルの11階。「韓国延世大学GTJセミナー」。そう書かれた会場には、14人ほどの受講生たちが集まっていた。
参加者は、韓国大手企業の日本担当者や日本進出企業を支援する金融機関の担当者、日本進出を試みる中堅企業2世経営者、IT関係のスタートアップ代表など、いずれも韓国の若いビジネスエリートたちだ。
日本進出を準備する韓国企業を対象に、日本に対する理解を深め、幅広い交流の場を提供しようという同大のGateway to Japan(GTJ)プログラムで来日した。日本での研修は今回が初めてだという。
同大OBが、日本の起業家を紹介して欲しいとJAPAN Forward(JF)に相談。JFのサポーターで、企業買収や経営コンサルティングが主業務のシルバーバックス・プリンシパル(SBP)社の日野洋一社長(57)が講義をすることになった。
日本人の「和」とは
産経新聞社前社長で、8年前にJFを創設した太田英昭代表(77)の挨拶に次いで、日野社長が「日本人を知る」と題して長い歴史の中で育まれた日本人の特質について約1時間半にわたり講義した。その中で、日本人の基本的な価値観に争いごとを避け、いろいろなものを取り入れて新しいものを創っていこうとする「和」の発想が根底にあることを指摘、共存共栄や利他という考え方があることも強調した。
質疑応答では、日韓で大きく異なる歴史認識の問題についても質問が出たが、日野氏は「後ろを向くのではなく、前を向いて進んでいくことが何より重要ではないか」と呼びかけた。
GTJプログラムを考案した権教授は、子供の頃から日本で暮らし教育を受けた。「技術や要領がいいだけでは日本で成功はできない。日本人より日本を知り、愛してこそ、成功できるということを、このプログラムを通じて知って欲しい。日本の匠(技術)と韓国のIT、スピードとダイナミズムのよいところをうまく混ぜ合わせることができたら、両国は世界をリードすることができる」とコメントした。
「素晴らしい出会い」
来日期間中には、日本の未来を担う製造業の技術を視察し、それら企業のトップとの懇親会などもプログラムに入っているという。
2016年には、GTJの逆に当たる韓国駐在の日本人ビジネスマンを対象にした教育と交流プログラム「Gateway to Korea(GTK)」をスタートさせた権教授。「初めての日本ツアーなので試行錯誤と緊張の連続だ」と話すが、「お互いに真の理解を深めることでしか、両国のわだかまりは解消されない。今回、日本の素晴らしい起業家と出会えたことは大きな喜びで、皆、満足している。こうした交流を積み重ねることで日韓の溝を埋め、相互理解を深めることでいずれ世論は変わっていく」と力強く語った。
世界が分断と混沌という闇の中を突き進んでいけば、最後は対立だけが残る。まだまだ小さな試みかもしれないが、日韓両国の若手起業家たちの奮起に期待したい。
筆者:内藤泰朗(JAPAN Forward編集長)
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