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特別国会が召集され、衆院での首相指名選挙の決選投票で、石破茂首相(自民党総裁)が立憲民主党の野田佳彦代表を破り第103代首相に選ばれた。宮中での親任式などを経て第2次石破内閣が発足した。
石破首相は衆院選で、自身が設定した与党過半数という勝敗ラインを達成できなかった。国民の信を得られなかったにもかかわらず石破首相も森山裕幹事長も責任を取って辞任することはなかった。憲政の筋を踏まえない首相続投は残念である。
石破首相に批判的な自民議員は少なくない。彼らが首相指名選挙で石破氏を選んだのは、安全保障政策などで非現実的な立民の野田氏に国の舵(かじ)取りを任せるわけにはいかないと考えた末の苦渋の選択だろう。
少数与党で展望描けず
30年ぶりの少数与党政権として石破首相は再出発を図る。国内外の課題は山積し、政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)とあっては石破首相の前途は多難というほかない。国政の停滞を憂えるばかりだ。
真っ先に取り組むことになるのは政治とカネをめぐる問題である。石破首相は、年内召集予定の臨時国会に政治資金規正法の再改正案を提出し、成立を期す必要がある。政治資金の透明性確保とパーティー収入不記載事件の再発防止に決着を図らなければならない。
政策活動費廃止や調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開、政治資金を監視する第三者機関設置などが焦点とされるが、外国人・外国法人のパーティー券購入の禁止も不可欠の課題である。
自民、公明両党の与党は衆院でキャスチングボートを握る国民民主党と、年収が103万円を超えると所得税が発生する「103万円の壁」の解消などについて協議しているが、財源確保の問題もある。
重要なのはデフレからの完全脱却に向け、物価上昇を上回る賃上げを確実なものにし、自律的な経済成長を実現することだ。衆院が過半数割れである以上、野党側との政策協議は欠かせないが、経済財政運営の大局は見失ってはならない。
最も懸念されるのは、国会運営の混乱で日本の政治が内向きに終始し、国の平和と独立、国民の安全を守る政策遂行がおろそかになってしまうことだ。
外交安全保障への関心を失っては大変なことになる。
米国との同盟関係は、国家安全保障にとって死活的に重要である。石破首相は、米大統領選に勝利したトランプ前大統領と早期に直接会談し、同盟強化を確認しなければならない。
中国、北朝鮮、ロシアの脅威に直面する日本は、日本防衛や台湾有事、朝鮮半島有事への米国の関与を常に確かなものにしておく必要がある。トランプ氏の関心を、日本および北東アジア、インド太平洋にも向けさせるのは石破首相に課せられた最も重要な責務である。
国の「基本」を守り抜け
ロシアのウクライナ侵略は続き、派兵された北朝鮮軍がウクライナ軍と交戦する事態となった。「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」という危機感を石破首相は忘れず、侵略者ロシアが凱歌(がいか)をあげるような展開を許さない外交を展開すべきである。
中東は喫緊の課題だ。戦火が拡大し、イスラエル・イラン間の「第5次中東戦争」の様相を呈する恐れがある。イランなどにいる日本人の帰国や安全確保を急ぐべきだ。エネルギー需給の面からも備えてほしい。
防衛力の抜本的強化を確実に進めたい。募集難になっている自衛官確保策の推進や、有事を想定した空港、港湾、シェルター建設も課題だ。
もう一つ懸念されるのは、与党が目先の国会運営にとらわれて、十分な議論もなしに国や社会の基本を乱す施策を受け入れてしまうことだ。
自民は衆院で、予算委員会や法務委員会の委員長、憲法審査会の会長などの重要ポストを立民に譲った。憲法審会長に就く立民の枝野幸男元代表は改憲の動きにブレーキをかけてきた人物だ。憲法審の議論が滞るなら改憲に前向きな政党で改憲原案の条文化を進めるべきだ。
野田氏は衆院法務委員長を得たのは選択的夫婦別姓の実現が狙いだとSNSで明かし、「自民党を揺さぶるには非常に効果的だ」とも語った。石破首相と自民は、家族や社会のありように関わる基本問題の変更は絶対に受け入れてはならない。
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2024年11月12日付産経新聞【主張】を転載しています
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