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中国外務省の林剣報道官は11月22日の記者会見で、日本に対する短期滞在のビザ(査証)免除措置の再開を発表した。中国は、日本に対して15日以内の短期滞在のビザなし渡航を認めていたが、2020年春に新型コロナウイルス禍を受けて停止していた。
ビザ免除の再開で日本との貿易を促進する狙いがあるとみられる。11月30日から来年12月31日までの措置としており、今回はビジネスや観光などの目的による30日以内の短期滞在のビザなし渡航が可能となる。
中国政府は今回、日本やブルガリア、ルーマニア、マルタなど9カ国に対して短期滞在のビザなし渡航を認めた。これにより、ビザ免除対象国は計38カ国になる。
短期ビザ免除は、コロナ禍前は日本、シンガポール、ブルネイの3カ国のみに認めていた。コロナ収束後、中国は短期ビザの免除対象国を広げてきたが、日本は対象から外れていた。
日本の経済界などが免除再開を要望していたが、中国政府は訪日する中国人にも同様に免除する「相互主義」を新たに求め、再開に応じていなかった。日中関係筋によると、日本側は中国人に対するビザ免除は受け入れない構えだ。
中国の習近平国家主席は今月15日、石破茂首相とペルー・リマで会談し、日中間で人的交流を進めることに意欲を示した。首脳会談を受け、日本に対する短期ビザ免除の再開に向けた調整が進められたとみられる。中国側は、石破氏を岸田文雄前首相と比べて「対中穏健派」とみており、日本との関係安定化に向けた動きをみせている。
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日本側は驚き 景気低迷やトランプ氏再登板が影響か
中国外務省が日本に対する短期滞在のビザ(査証)免除措置を今月30日から再開すると発表したことに対し、日本側では「一方的なビザ免除に動くとは」と驚きが広がった。中国経済が景気低迷に直面する中で外資の対中投資を必要としていることに加え、トランプ次期米大統領の就任を前に日本などとの関係改善を急いでいることが今回の決定につながったとみられる。
「こんなに急に事態が動くとは思っていなかった」
日中交流団体幹部は、ビザ免除再開の決定を寝耳に水の出来事と受け止めた。経済界の要望を受けて日本政府が再開を繰り返し求めていたが、中国側は中国人の訪日でも同様に免除する「相互主義」を新たに掲げて再開に応じていなかったからだ。日中関係筋によると、日本側は中国との相互のビザ免除は受け入れておらず、今回の決定は中国側の一方的なものとなった。
中国政府が持論を曲げて再開に応じた背景には景気悪化がある。不動産不況の長期化で中国の景気には勢いがなく、外資の対中投資を必要としている。中国商務省は21日、貿易の安定成長に向けた措置として、一方的なビザ免除の対象国を拡大させるといった方針を盛り込んだ通知をホームページに掲載していた。
また、中国は現在、来年1月に発足する第2期トランプ政権に備え、米国の同盟国などとの関係改善を進めている。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権下で関係が悪化していた韓国も今月8日からビザ免除対象国に初めて加えている。
日本とは10月の石破茂首相の就任を機に、関係安定化に向けた動きを積極化させている。日中関係筋は「新首相が誕生したことで対日アプローチを変えてきた」と指摘。中国メディア関係者は「中国政府は、米国と緊密だった岸田文雄前首相と比べて石破氏は『対中穏健派』と考えているようだ」と指摘する。
ただ、反スパイ法に基づく日本人拘束や、広東省深圳(しんせん)の日本人男児刺殺事件に関する詳細な情報開示といった日中間の人的交流を巡る重い課題はまだ残る。また、今回のビザ免除措置は来年末までの措置としており、延長に向けて再び「相互主義」などを持ち出してくる可能性もある。
筆者:三塚聖平(産経新聞中国総局)
(産経新聞)
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