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フランスのバルニエ内閣が総辞職した。下院が不信任を決議したためだ。バルニエ首相は辞任した。欧州ではドイツでも11月上旬、ショルツ連立政権が崩壊した。
自由と民主主義の価値を共有する西側諸国が専制主義勢力の挑戦を受け、欧州連合(EU)の結束が最も問われる時期である。リーダー格の仏独両国がそろって政治的混迷にあえぐのは、極めて憂慮すべき事態だ。
米国のトランプ次期大統領は高関税政策や、ロシアの侵略が続くウクライナの早期停戦を掲げ、欧州諸国との対立も懸念される。マクロン大統領は速やかに後任首相を選定し、混乱を早期収拾する責務がある。
3カ月に満たぬ短命内閣だった。マクロン氏は6月に下院を解散し総選挙を実施したが、同氏の与党連合は下院議席の3分の1に届かず、野党だった中道右派のバルニエ氏を首相に据えた。同氏は財政赤字削減を目指すが、合意形成に失敗した。
下院で2025年の社会保障予算案採決を強行し、これを契機に最大勢力の左派連合に極右「国民連合」が相乗りする形で不信任案が可決されたのだ。
不信任決議は1962年のドゴール政権でポンピドー内閣が総辞職して以来である。バルニエ内閣は58年に移行した現在の「第五共和制」で最も短命となった。背景にはマクロン氏の著しい求心力低下がある。辞任圧力が強まるのは必至だろう。
ドイツでも11月にショルツ連立政権が2025年予算案をめぐる対立で崩壊した。政権支持率は10%台まで落ち込んだ。来年2月にも総選挙が実施される公算が大きいが、政権交代は避けられそうもない。
仏独政局の混迷は中露や北朝鮮などが結託する世界情勢の不確実性を高めている。欧州に冷淡なトランプ氏がウクライナの早期停戦を唱える中、交渉でウクライナの領土を擁護し安全を保証するにはEUの結束が極めて重要だ。欧州政治の不安定化は対露圧力を弱めてしまう。
韓国では尹錫悦大統領の「非常戒厳」宣布を巡る混乱が朝鮮半島情勢を揺るがしている。石破茂内閣も韓国などと同様に少数与党で政権基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。
民主主義諸国で指導者の求心力低下と内政の分断が連鎖する事態をさらに許せば、「悪の枢軸」の思うつぼではないか。
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2024年12月7日付産経新聞【主張】を転載しています
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