This post is also available in: English
中国で無差別殺傷事件が頻発している。
背景には、深刻な不況や厳しい言論統制に伴う社会の閉塞(へいそく)感があるといわれる。習近平指導部が、この状況に適切に対応しない限り、悲惨な事件は今後も起きかねない。
広東省では11月11日、暴走した車が通行人を次々にはね、35人が死亡した。16日には江蘇省の専門学校内で元在校生が刃物を振り回し、8人が犠牲になった。19日には、湖南省の小学校前で車が児童の列に突っ込み、多くの児童らが、病院に搬送された。6月には江蘇省で日本人母子らが刃物を持った男に襲われ、9月には広東省で日本人男児が刺殺された。
ほかにも刃物や車を凶器とした殺傷事件が、中国各地で報告されている。異常な事態だ。
中国のSNSでは、失業や就職難などの苦境に陥った人々が自暴自棄になり、「社会への報復」として起こしたとみる書き込みが相次いでいる。
習氏は、社会の安定を全力で守るよう求める「重要指示」を出した。これを受けて、失業者など「所得や社会的地位の低い人」らを洗い出す作業が始まった。「危険人物」として監視するためだ。
だが、このような手立てで封じ込められるとは思えない。問われているのは中国共産党の体制そのものである。
中国には、共産党政権の支配を免れた本当の意味での労働組合は存在しない。言論の自由も、選挙を通じて為政者を交代させる仕組みもない。党や政府とそれに連なる特権階級の利益を優先し、国民の権利や利益を大幅に制限してきたことへの不満が増大し、悲惨な事件を招いているのではないか。
習指導部が講じるべきは、監視強化ではなく、問題を抱えた人への支援体制を作ることだ。医療や年金制度の拡充、民間の労働組合の設立など社会のセーフティーネットを築くべきだ。巨大な軍事費を計上して軍拡や台湾を威嚇するよりも、国民のために富を用いるときではないのか。言論の自由や政治の民主化も進めなければならない。
中国外務省は自国を「世界で最も安全な国」と称してきた。11月30日から日本人への短期滞在ビザ免除を再開したが、治安を乱す根本原因を改めなければ、外国人が安心して訪問できる国になるのは難しい。
◇
2024年12月6日付産経新聞【主張】を転載しています
This post is also available in: English