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文部科学省がデジタル教科書を「正式な教科書」と位置づけ、紙の教科書と選択できる制度の導入を検討している。中央教育審議会(中教審)で議論し、令和8年度中の制度改定を目指している。
だが、デジタルより紙で学ぶ方が集中力が持続するという指摘もある。デジタル教科書は、6年度から代替教材として一部の小中学校で使われ始めたばかりだ。その効果を見極めるべきで、十分な実証もなく正式な教科書にするのは軽はずみに過ぎよう。
この問題で文科省は、中教審の作業部会に今後の議論の論点を示した。デジタル教科書を代替教材ではなく、検定などの対象となる教科書として扱うことや、紙かデジタルかを各教育委員会が選べるようにすることの是非などが検討される。
しかし紙とデジタルでは勉強の仕方が異なり、理解度に差が出る可能性がある。各教委がどちらかを選ぶ制度は教育の機会均等の原則に照らしても問題があろう。紙の教科書が使われている地域からデジタル教科書の地域へ転校した際、またはその逆の場合に、児童生徒は戸惑うはずだ。
デジタル化された教材は子供たちに新鮮感を与え、興味をそそる効果があるのは確かだ。一方、操作に気を取られて読み飛ばしが生じたり、集中力が続かなかったりして、紙の教材に比べて読解力などが身につきにくいといわれる。
タブレットなどに文字を打ち込むより、紙に書いたほうが、理解力や記憶力を高められると指摘する識者もいる。
教育のデジタル化は北欧諸国などが先進的に進めてきたが、最近はデメリットが大きいとして見直す動きも出ている。2010年代からデジタル教材を本格導入してきたスウェーデンでは、国際的な学力調査の成績が低下したため教育政策を転換し、23年から紙の教材に戻すようになった。
日本では令和元年度以降、小中学校に1人1台のデジタル端末を配備するGIGAスクール構想が進められてきた。子供たちがそれらを使い、活用する取り組みに意味はあっても、過度なデジタル化は逆効果だ。
教科書は、子供たちに基礎的・基本的な学力を身につけさせる主たる教材である。紙が適切なら、変えてはならない。
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2025年2月3日付産経新聞【主張】を転載しています
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