拉致事件の解決に向けて、トランプ米大統領にかかる期待は大きい。2月7日予定の首脳会談で、石破茂首相は強力な関与を要請してほしい。
Shigeru Ishiba and Donald Trump

石破茂首相、トランプ米大統領(ロイター=共同)

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膠着(こうちゃく)する拉致事件の解決に向けて、トランプ米大統領にかかる期待は大きい。2月7日予定の首脳会談で、石破茂首相は強力な関与を要請してほしい。トランプ氏を動かす最大の要素は、被害者家族や国民の怒りを集結させた情と熱である。

トランプ氏は第1次政権時代、金正恩朝鮮労働党総書記と米朝首脳会談を重ね、拉致に言及して直接、正恩氏を責め立てた。拉致を会談で取り上げた理由を会見で問われたトランプ氏は「安倍晋三首相の最重要課題だからだ」と答えた。

拉致被害者、横田めぐみさんの父、滋さんが亡くなった際には弔意の書簡が届き、「めぐみさんを必ずご自宅に連れて帰るという重要な任務を続ける」と記されていた。

トランプ大統領とメラニア夫人、安倍首相、拉致被害者の御家族=2017年11月6日

トランプ氏をこうした行動に駆り立てたのは、安倍元首相の粘り強い説得や、面会を重ねた被害者家族らの熱意であり、政権と家族会が同一歩調で迫った成果だったといえる。

翻って石破氏は先の衆院予算委員会で立憲民主党の源馬謙太郎副幹事長に拉致事件で「米国の協力を求めるために何をするのか」と問われ、「米国がこれから先、北朝鮮とどのように交渉するかは私の知る範囲ではない」などと答えた。こうした評論家的な物言いは、トランプ氏の胸に響かないだろう。

石破氏の持論である東京と平壌に相互連絡事務所を置く構想に、拉致被害者家族連絡会の横田拓也代表は「連絡事務所は時間稼ぎ、拉致問題の幕引きにつながる。北朝鮮の術中にはまるだけだ」と反対している。首相と家族会の不一致は、北朝鮮を喜ばせるだけだ。

平成14年に帰国した拉致被害者の蓮池薫さんは後に「日本政府、国民の拉致解決への意志が続くのか北朝鮮は見ている」と述べた。石破氏は、この言葉を改めて胸に刻んでほしい。

トランプ米大統領(右端)と面会する横田めぐみさんの母早紀江さん(手前左から3人目)ら拉致被害者家族。右から2人目は安倍首相=2019年

蓮池さんらの帰国に結びついた当時の小泉純一郎首相と金正日総書記の首脳会談が成立した背景には、米ブッシュ政権が北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しした強い圧力があった。

拉致の解決や、核・ミサイル開発を阻止するためには強大な軍事力、経済力を有する米国の関与が不可欠である。トランプ氏の関心を北朝鮮問題に向けられるか。それは石破氏に求められる重大な使命である。

2025年2月6日付産経新聞【主張】を転載しています

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