2024年7月、ドイツと英国、ポーランドの航空貨物集積所で相次いだ出火について、ロシアが関与していたとの見方を欧米当局が強めている。
Vladimir Putin in Mongolia rs

モンゴル・ウランバートルで開かれた同国との共同文書調印式に出席したロシアのプーチン大統領=2024年9月3日(タス=共同)

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満席の旅客機が炎に包まれ、墜落していてもおかしくなかった。身の毛のよだつ話である。昨年7月、ドイツと英国、ポーランドの航空貨物集積所で相次いだ出火について、ロシアが関与していたとの見方を欧米当局が強めている。

出火は7月後半、ドイツ中東部ライプチヒ、英中部バーミンガム郊外、ポーランドの首都ワルシャワ郊外で相前後して起き、国際物流大手DHLの倉庫などが燃えた。

11月の米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、英国とドイツで出火したのはリトアニアから発送されたマッサージ器で、マグネシウムを使った発火装置が仕込まれていた。

マグネシウムが発火すると、航空機に搭載されている消火装置では対応が難しい。航空貨物の多くは貨物専用機で運ばれるが、民間旅客機の貨物室が使われることもあるという。

欧州諸国の捜査当局は一連の犯行について、貨物がどういった経路で米国やカナダへの航空機に搬入されるかを見定める予行演習だったとみている。

今年1月13日の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によれば、米国のバイデン前政権は諜報を通じて昨年8月に露軍参謀本部情報総局(GRU)の関与を断定。当時のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とバーンズ中央情報局(CIA)長官を通じ、テロを中止するようプーチン露政権に警告した。

ポーランドのトゥスク首相は今年1月15日、ロシアがポーランドを含む全世界の民間航空機に対して「テロ行為」を計画していたと記者会見で明言した。

欧州のバルト海では、海底の光ファイバー通信ケーブルや電力ケーブルが損傷する事態が相次ぎ、やはりロシアの関与が強く疑われている。

昨年11月には、ロシア人を船長とする中国の貨物船によって海底通信ケーブル2本が損傷した。12月にも電力ケーブルと通信ケーブル4本の損傷が起き、フィンランド当局は露産石油を運ぶタンカーを拿捕(だほ)した。海底には100キロ近くにわたっていかりを引きずった跡があった。タンカーは米欧日の制裁を逃れて露産石油を密輸する「影の船団」の一隻とみられている。

北大西洋条約機構(NATO)は海底重要インフラの防衛を目的とした部署を立ち上げ、警戒強化に乗り出している。海底ケーブルの損傷は今年1月、中国人が乗り組む貨物船によって台湾周辺海域でも起こされており、日本にとっても人ごとではない。

欧州諸国はロシアによるハイブリッド戦争がすでに始まったとの危機感を強めている。ロシアはウクライナ支援に反発し、グレーゾーン攻撃で欧米側の出方を試していると考えられる。防衛の強化はもちろん、バイデン前米政権がしたように厳重な警告をロシアに発していくことが肝要だ。

米国でトランプ新大統領が就任し、ロシアによるウクライナ侵略戦争が早期終結に向かうことへの期待が出ている。日本の一部論客には、トランプ氏とプーチン露大統領が手を組めば世界が平和になるといった暴論すらある。

ロシアのプーチン大統領(左)と会談する1期目のトランプ米大統領=2019年6月(ロイター=共同)

筆者はウクライナ侵略戦争の公正な終結を願う気持ちで人後に落ちないつもりだが、議論をする際にはロシアとプーチン政権の本質を見失ってはなるまい。

筆者:遠藤良介(産経新聞外信部長兼論説委員)

2025年2月4日付産経新聞【一筆多論】を転載しています

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