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トランプ米大統領=2月13日(ロイター)
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関税を振りかざして他国を脅すトランプ米政権の行動が一段と加速してきた。世界の通商秩序を意に介さぬ独善性が露骨で、問題が大きい。日本や国際社会は米国に強く自制を促すべきである。
米国の関税率を貿易相手国と同じ水準まで引き上げる「相互関税」導入をトランプ大統領が指示した。早ければ4月にも実施する。さらにトランプ氏は米国が輸入する自動車への関税を4月2日に引き上げる意向も示した。
米国は既に中国、カナダなどへの追加関税や鉄鋼・アルミニウム関税も打ち出している。相互関税は国・地域や製品の対象範囲が広い。世界経済への悪影響が格段に強まりかねず、極めて憂慮すべき状況となった。
トランプ氏が強く意識するのは関税を巡る不公平感だ。新興国などは自国産業育成のため輸入品への関税を高くする傾向がある。先進国でも、米国の自動車関税は2・5%なのに欧州連合(EU)は10%だという差異などを問題視してきた。
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米国の不満を全て否定することはできない。ただ各国・地域の関税率は、それぞれの経済・社会情勢を踏まえつつ世界貿易機関(WTO)などの長年の交渉で定められた経緯がある。
そこを顧みず、いきなり相互関税を突き付ける手法は乱暴すぎる。ディールに持ち込む戦略なのだろうが、相手が一方的に譲歩させられる展開になれば禍根を残すことになるだろう。
見過ごせないのは、非関税障壁も相互関税の根拠にしようとしていることだ。日米間では第1次トランプ政権時の貿易協定で工業製品などの関税撤廃が進んだ。ただ、かねて米国は日本における自動車の安全基準などが米国車の輸出を妨げていると指摘しており、今回、この問題が蒸し返される懸念もある。
米国は規制や補助金に加えてEUの付加価値税のような税制まで問題視する。米国が相互関税の名目で内政に不当に干渉することが許されないのはもちろん、恣意(しい)的に高関税を課さないよう警戒を強めるべきだ。
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米国が他国との互恵関係などどこ吹く風とばかりに振る舞えば、先進国、新興国を問わず対米不信が強まろう。結果的に各国が対中依存を深める契機にもなり得る。それが米国の国益になるのかをトランプ政権には冷静に見極めてもらいたい。
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2025年2月19日付産経新聞【主張】を転載しています
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