
兵庫県姫路市がインバウンド向けの料金設定を一時模索した姫路城=兵庫県姫路市
This post is also available in: English
政府が打ち出した令和12(2030)年に訪日外国人客(インバウンド)を6千万人とする目標達成に向け混雑の分散や訪日客の地方への誘導が課題となるなか、国内の観光地でインバウンドらと地元住民とで価格を別々に設定する「二重価格」の導入が始まった。円安や物価水準の差で負担能力が高いインバウンドに負担を多く求めるもので、民間企業では受け入れが進む一方、営利目的ではない自治体の観光施設では公平性に問題があるとして、導入に二の足を踏むケースが多い。
沖縄県に7月にオープンする、自然体験型テーマパーク「ジャングリア沖縄」。1月に都内で行われた会見では、大人料金はインバウンドら一般が税込み8800円、国内在住者は6930円とする二重価格が発表された。
運営するマーケティング会社の刀(大阪市)では「海外のテーマパークと比べて安い。グローバルで競争力のある価格」(担当者)として、インバウンドにも理解を得られると判断したという。二重価格で収益を確保し、今後の展開拡大に備えるマーケティング戦略だ。
制度導入の背景にはインバウンドが急拡大する中で、観光地側の受け入れ体制の整備や拡充、地域との融和が喫緊の課題になっていることがある。インバウンドの徴収分をこうした環境整備に充てる試みだ。
二重価格とは少し異なるが、大阪府が府内に宿泊するインバウンドに数百円の負担を求める「徴収金」制度について吉村洋文知事が「訪日客が増えるなかで、地域住民の生活環境も保っていかなければならない。両者の共存共栄を図ることがこれから非常に重要になってくる」と強調した。
このような制度はインバウンドからの評判を落とすリスクもあるが、一方で観光地側は収益を上げやすくなるというメリットも期待されるといえる。
国立施設である仏ルーブル美術館でも導入されるなど海外では当たり前ともされる二重価格制度だが、文化庁などによると、国内の自治体管理の施設で導入されているケースは把握できていないという。

世界文化遺産・国宝の姫路城を抱える兵庫県姫路市の清元秀泰市長が昨年6月、インバウンドに限って値上げを検討すると表明したが、一部で「外国人差別では」との批判があったほか、観光客と住民とを現場で確認することが困難だという指摘もあり、結局は「市民と市民以外」の区分けに軌道修正された。大阪府の徴収金制度も有識者会議の中で委員から「目的を明確にしなければ導入が難しい」「相当明確な根拠が必要」など慎重な意見が相次ぎ、導入が見送られた。
第一生命経済研究所の前田和馬主任エコノミストは、インフラ運営や観光スポットに税金が使われ、住民が相応の負担をしている観点から「外国人観光客の追加負担に違和感はない」とし、観光税などを「持続的な観光客受け入れの財源に活用することを前向きに検討するべきだ」としている。インバウンドや地域住民の理解を得つつ、民間の先行事例をどう生かすのか、自治体側の対応に注目が集まる。
二重価格や観光税、海外では「常識」
観光地で国内客と海外からの訪問客の価格を別々に設定する「二重価格」。日本では「外国人差別」との声もあるが、海外では〝常識〟になりつつある。
エメラルド寺院の通称で知られるタイのワット・プラケオは、外国人の入場には500バーツ(約2300円)が必要だが、タイ人は無料。インドの世界遺産タージ・マハルは外国人が1100ルピー(約2千円)で、インド人の22倍となる。フランスのルーブル美術館にも二重価格が来年導入される見通しだ。

アフリカのマダガスカルは、国立公園の外国人入場料が最高で現地人の約33倍となる。7年ほど前まで現地で暮らし、割高な外国人料金を支払っていたという東京都勤務の女性会社員(35)は「現地人と価格が違うのは当然」とし、「日本でも導入を進めて」と訴える。
海外では観光税の導入も進んでいる。イタリアのベネチア市は昨年4月に試験導入し、団体旅行の人数も制限。今年も繁忙期に日帰り客1人当たり5~10ユーロ(約800~1600円)の課税を続ける。米ハワイ州は2018年1月から10・25%の宿泊税を課し、気候変動対策料として観光客から25ドル(約3800円)を徴収する検討も始めた。
日本だけでなく世界中の観光地が、観光客の急増で地元住民が悪影響を受けるオーバーツーリズム(観光公害)に悩まされている。英調査会社ユーロモニターインターナショナルの木村幸(さち)シニアコンサルタントは「観光税を交通や公共サービスなど地元住民の生活充実に使うことが求められる」と指摘している。
筆者:田村慶子(産経新聞)e Sankei Shimbun
This post is also available in: English