
「サイdo男(メン)カード」と名付けられたカードには、実在する地域の男性の写真やイラストが掲載されている=福岡県香春町(一居真由子撮影)
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隣のおじさんが最強ステータス?! かつてセメント産業で栄えた人口約1万人の福岡県香春町(かわらまち)で生まれた「ご当地トレーディングカード」が注目を集めている。印刷されているのは地域でボランティア活動をする実在の「おじさん」で、それぞれの特技を武器にして対戦ゲームとして遊ぶ。地元の協議会が制作したものだが、子供たちの間でブームとなり、カードを求める人が県外からも来訪。トレカは子供たちと地域住民をつなぐツールにもなり、総務省も注目する取り組みとなった。
敬意を表して制作
壊れた家電も修理可能な「プラズマコンダクター」や、何でも組み立てられる「オールプラモデラー」、元消防団長の「ファイヤーウォール」-。それぞれに「HP(ヒットポイント=体力)」と「MP(マジックポイント=技を使うためのエネルギー)」が数値で記され、カードを持つ相手と対戦して遊ぶ。
「サイdo男(メン)カード」と名付けられたこのカードには、実在する地域の男性の写真やイラストが掲載されている。同町内の「採銅所地域コミュニティ協議会」が令和5年11月、ボランティア活動に従事する男性を紹介する目的で制作。カードには得意分野や人物の背景を示す「フレーバーテキスト」も記されている。
きっかけは、同協議会で事務局長を務める宮原絵理さん(45)が、ボランティア活動をする住民の力に感銘を受けたことだった。大工仕事が得意な人、絵が描ける人、そば打ちの名人-。それぞれスキルと知識を生かして活動していた。
「何かお願いしたらすぐに助けてくれる。自分にできないことをなんでおじさんたちはできるんだろうとリスペクトの気持ちがわいた。みんな何かのプロフェッショナルなら、子供たちに伝えたいと思った」と宮原さんは語る。

人気で常に在庫切れ
最初に作ったトレカは単に集めるだけのカードだったが、子供たちがカードを突き合わせて「おれの方が強い」と遊んでいたのを見て対戦ができるゲームカードに昇華。住民のことを知りながら楽しく遊べるルールをつくり、3枚100円、6枚500円(キラカード入り)といった価格で販売を始めた。実在の人物を採用しているため、相手を倒しても決して「死んだ」という言葉を使わないよう子供たちに伝え、元小学校保健室の愛称「ゆずルーム」から「ゆずった」という言葉が浸透した。
カードの種類は徐々に増え、3月18日現在で男性を紹介するカード28枚を含む47種類となった。参考にしたいという他地域の声は多く、講演依頼が寄せられるようになったり、総務省からも地域づくりの観点で説明を求められたりした。
ボランティアには女性もいるが、女性は自分が攻撃するなど遊びに使われるのを嫌がるため採用していない。カード制作は同協議会のスタッフが担当し、作れば売れるため常に在庫切れで、これまでの作成枚数は不明という。
絆再構築にも一役
特に人気のあるカードの一つが「オールラウンダー」で、HP、MPが高く、相手の攻撃をそのまま返すことができる。オールラウンダーとして「この人に任せれば何でもできる」と紹介されているのは藤井大充(だいみつ)さん(68)。刑務官として40年間にわたり医療刑務所に務め、覚醒剤や性犯罪で服役中の受刑者の更生をサポートしてきた。8年前に退職した後は、交通手段を持たない高齢者の送迎を行っている。
藤井さんは「まちで声をかけられたり、カードにサインしてと求められることもある」と笑う。子供たちの間で「カードの人があそこにいた」と話題になることも多い。「地域は過疎化が進み、住んでいる人を知らないという人も増えたが、子供と大人がつながるプラスの面がある」と藤井さん。カードは地域の絆を再構築するのにも役立っている。

住み続けたい地域に
男性のカードはボランティアの活動量によってレア度の高い「キラカード」に変わる。宮原さんは「ボランティアやイベントに参加する子供が増え、注目度が上がったおじさんにもやる気が出ている。知らないからあいさつもしないが、スキルを知れば『会えるヒーロー』。一緒に活動する仲間が増え、子供たちが住み続けたいと思う地域にしたい」と話している。
ご当地トレカは他県でも誕生しており、青森県では実在する漁師が半裸にカッパ姿で登場する「あおもりの肴(さかな) 漁師カード」が人気だ。県産水産物の知名度向上と消費拡大を図ろうと県庁職員が企画した。愛知県豊橋市では、手筒花火の「揚げ手」を美麗な花火写真とフルネームで紹介する「豊橋手筒花火カード」が話題を集めている。
筆者:一居真由子(産経新聞)
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