元米海軍大学校教授で中国海洋戦略研究の権威、トシ・ヨシハラ氏が、中国当局が尖閣諸島の周辺海域で「恒常的な存在」を誇示することで日本側の施政権を否定し、同諸島の共同管理を宣言する準備を進めていると警告した。
Senkaku Islands

尖閣諸島(鈴木健児撮影)

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元米海軍大学校教授で中国海洋戦略研究の権威、トシ・ヨシハラ氏が産経新聞のインタビューに応じた。中国当局が尖閣諸島(沖縄県石垣市)の周辺海域で「恒常的な存在」を誇示することで日本側の施政権を否定し、同諸島の共同管理を宣言する準備を進めていると警告した。中国側は同時に日米安全保障条約に基づく米国の軍事介入を難しくするため、漁民を装う民兵の尖閣上陸も考えているという。

日系米人学者のヨシハラ氏は、米海軍大学校付属の中国海洋研究所に主任研究員として10年以上在籍。現在はワシントンの戦略予算評価センター(CSBA)の上級研究員を務めている。

ヨシハラ氏はインタビューで、中国海警局の武装艦艇が最近、尖閣諸島の日本領海に過去最長となる92時間以上の侵入を果たし、準領海とも呼べる接続水域には2024年に355日侵入したという報道を取り上げ、「中国は尖閣海域での恒常的な存在、管理を国際的にも誇示することに努めている」と述べた。

ヨシハラ氏の研究によると、中国の習近平国家主席が一昨年末に中国海警局本部を訪れ、「釣魚島(尖閣の中国側名称)の主権を強化せよ」と命令したことを受ける形で中国海警の尖閣海域侵入は艦艇の規模の拡大や頻度が目立って多くなった。その侵入を中国海警局の公式サイトに詳細に記載して、尖閣への恒常的な「駐留や巡回」の国際的認知を図っている。

中国当局はそのすぐ先の目標として、尖閣諸島の中国の主権や施政権を公式に宣言し、日本に対しては当面の尖閣の共同管理を通告する戦略を進めているという。

フィリピン船(手前中央)を挟む中国海警局の船。中国軍の南部戦区が2024年6月19日、「微信(ウィーチャット)」公式アカウントで公開した(共同)

日米安保条約は日本の施政権下の領土への武力攻撃に米国が共同防衛にあたることを義務づけているが、中国による尖閣の日本の施政権否定はこの共同防衛への障害になる可能性もある。

ヨシハラ氏はまた「中国側は無人の尖閣の実効支配を目指すため、人民解放軍海軍の末端の民兵を漁民と称して尖閣に上陸させる作戦も計画している」と述べる。こうした中国の動きは、米国が日米安保条約で誓約する共同防衛の条件となる「武力攻撃」に相当するか否かの判定が難しい。この点を日米両国にとっての難題として指摘した。

尖閣周辺海域に侵入した中国海警局船。機関砲のようなものを装備している(海上保安庁提供)

ヨシハラ氏はまた、中国がこの尖閣への攻勢と同時に、軍事演習や海上封鎖での台湾締めつけと、南シナ海スプラトリー諸島の第二トーマス礁でのフィリピン船舶撃退を進めていると指摘した。尖閣奪取も習近平政権の野心的な海洋膨張作戦の一環であるとも強調した。

ヨシハラ氏のインタビュー要旨は以下の通り。

中国は習近平国家主席の中国海警局への釣魚島(尖閣諸島の中国側呼称)の主権強化の命令により、尖閣水域への艦艇の侵入が激増し、日本の領海への不法滞在が一回で92時間以上という新記録を作った。日本の接続水域への侵入は年間355日を記録した。

中国は尖閣水域での「恒常的な存在」を国際的にも誇示し、日本の施政権を否定し、自国の主権や施政権を宣言し、日本側に対しては尖閣の共同管理を通告することを計画している。

その一方、中国は海軍の末端の民兵を漁民に偽装させ、尖閣に上陸させ、占拠あるいは実効支配を目指す作戦も練っている。この方法は武力攻撃と断定することが難しく、日米安全保障条約に基づく共同防衛を困難にする。

日本側は今の危機を脱するため、尖閣への公務員常駐などの措置も考えられるが、その種の現状変更には中国側の強い反発が予想さる。日本側に断固として対処する覚悟がない限り、解決策とはならない。

中国は尖閣への攻勢と同時に台湾への軍事演習や海上検疫演習での圧力、南シナ海の第二トーマス礁でのフィリピン官民への中国海警局の大規模な攻勢を続けており、この3正面作戦は大規模な海洋膨張戦略だ。

中国は台湾に対しては正面からの大規模上陸作戦ではなく、海上封鎖や台湾内部の攪乱(かくらん)など、純粋な軍事攻撃と判定できない手段を考えており、米国にとって難題となっている。その背景には米中の軍事バランスが中国に優位に傾きつつあるという大きな流れがある。

トランプ政権はいま、ウクライナや中東での調停を優先し、インド太平洋への政策を明確にしていないという印象もあるが、最大の脅威はやはり中国である。米国の最大資源を対中抑止に向けることが基本政策だといえる。

筆者:古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)

■トシ・ヨシハラ氏 1972年生まれ、台湾育ち。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院で博士号を取得。米海軍大学など多数の有名校で教鞭をとった。著書に『毛沢東の兵、海へ行く 島嶼作戦と中国海軍創設の歩み』(扶桑社)など。n, DC

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