
谷中霊園の一角。長年放置された墓所の前には管理事務所が立てた「無縁看板」があった=東京都台東区(白岩賢太撮影)
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亡くなった後に引き取り手がなく、自治体が火葬や埋葬を行った遺体は、令和5年度に4万人を超えたことが厚生労働省の推計で分かった。
自宅や病院で亡くなっても、遺体を引き取る親族らがいない場合は、法律に基づいて自治体が遺体の保管や火葬、埋葬を行うが、さまざまな問題が浮かび上がっている。
親族との連絡に時間がかかって遺体が葬儀業者の保冷施設に3年以上預けられたままだったり、埋葬後に親族が判明してトラブルになったりしたケースも報じられた。
探すべき親族の範囲、遺体や遺骨の保管方法や期間は、各自治体によって対応が異なる。
国はこれらを自治体任せにせず、参考になる指針を示したらどうか。それに沿ったマニュアルを自治体がつくることで現場の負担も軽減されるだろう。

医療や介護関係者、葬儀業者とも意見交換を行い、課題を共有することも大切だ。
厚労省は昨年、全国の約1700の自治体を対象に、引き取り手のない遺体や遺骨の扱いをめぐる初の調査を行った。
回答のあった約1160の自治体の報告を分析し、自治体が火葬や埋葬を行った遺体は、一昨年に約4万2千人に上ると推計した。これは全死亡者数の2・7%にあたる。
背景には、高齢単身者の増加や未婚率の上昇、親族との関わりの希薄化などがある。今後も、身寄りのない高齢者が増えていくことは確実だ。
調査では、対応マニュアルを備えている自治体は11%にとどまった。マニュアルを作り、周知することで、高齢単身者に自治体への相談を促したり、緊急連絡先を登録してもらったりすることも期待できる。
人と人の繫(つな)がりが薄ければ看取(みと)りも死後の整理も困難になる。自治体が、地域の社会福祉協議会や介護事業所、NPO法人、ボランティア組織の連携を主導し、見守りの網の目を細かくしてゆくことも重要だ。
集合住宅の自治会の活動も有効である。新型コロナウイルス禍で脆弱(ぜいじゃく)になった地域の繫がりを再構築することは急務だ。
だれもが安心して人生の幕引きができる環境を国と自治体は整えてほしい。高齢単身者に親族との繫がりを取り戻すよう促すことも欠かせない。
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2025年4月16日付産経新聞【主張】を転載しています
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