何をもって「保守」とするか、その概念が、揺らぎをみせている。自民党都連が夏の参院選の東京選挙区に、保守とは呼べないNPO法人前代表理事の擁立を検討し、批判を受けて断念した騒動はその一例だろう。
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20年ごとに社殿を建て替える伊勢神宮の式年遷宮 =平成25年10月、三重県伊勢市

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何をもって「保守」とするか、その概念が、揺らぎをみせている。

自民党都連が先日、夏の参院選の東京選挙区におよそ保守とは呼べないNPO法人前代表理事、渡部カンコロンゴ清花の擁立を検討し、批判を受けて断念した騒動はその一例だろう。

渡部はかつて自身のSNSで安倍晋三政権を罵倒した。保守の揺らぎが加速するのは、その安倍が凶弾に倒れた令和4年以降だ。保守勢力と革新勢力とが激しく対立する構図が崩れ、翌5年には安倍が存命なら許さなかったであろうLGBT法が成立した。

それを機に、いわゆる岩盤保守層の自民離れが進んだこともあり、昨年の衆院選で自民は大敗を喫した。

いまや、保守対革新ではなく、保守を名乗る者たちが互いに批判し合う場面が多い。内外情勢が悪化する中、保守が分裂したままでは国難を乗り切れず、日本が日本でなくなってしまう恐れもある。

―と、そんな危機感で組まれたのが『Hanada』の特集「『保守』とは何か」だ。中でも作家、竹田恒泰の巻頭論文が読ませる。

竹田によれば保守とは「守るべきものを守るために、柔軟に変化していくこと」。その分かりやすい例として、伊勢神宮の式年遷宮(しきねんせんぐう)を挙げる。

西洋の建物は堅固であってもやがて朽ちる。だが伊勢神宮は、20年に1度の建て替えを繰り返すことで「太古の建築をいまに伝えている」。建て替えには膨大な木材が必要だが、調達方法を柔軟に変えていくことで建築様式を受け継いできた。

以下、「変化することで本質を守り通す」ことが重要だと、竹田は説く。問題は、日本人にとって守るべきものが何であるかが、見えにくくなっていることだ。保守の混乱の根源もここにある。

学生運動が盛んだった昭和40年代、作家の三島由紀夫は最後に守るべきものとして、皇位継承に欠かせない「三種の神器」を挙げた。竹田はそれを引用し、「『皇統保守』が日本の保守の神髄」と指摘する。

皇位は、初代神武天皇から第126代今上天皇まで、一度の例外もなく男系により継承されてきた。この大原則を堅持し、皇位の安定的継承策を講じることが、保守再生の一里塚となろう。

同じ特集で参院議員の青山繁晴は、「保守とは、日本が日本であるために、へこたれずに戦い続けることである」とし、結束して取り組むべき課題として安全保障政策を挙げる。

青山によれば、軍法会議を持たない自衛隊は「国民軍では無い」。刑法など(平時を前提とする)市民社会のルールに従わねばならず、有事の際、十分に身動きが取れない。日米安保条約を改定し、憲法9条も改正して「国民軍への道を開く」のが、保守の役割であるという。

実際、米大統領のトランプは日米安保の片務性を批判し、先日の日米関税交渉でも防衛負担を「ディール(取引)」の対象にすると表明した。この現実は重い。

保守の揺らぎに関する論考は『WiLL』も掲載しており、今後の論壇のテーマの一つになろう。

では革新はどうか。残念ながらまったく変わらないようである。

『世界』の特集「憲法を取り戻す」が、それを端的に示している。学習院大教授、青井未帆の論文「よみがえる『統帥権』独立問題」を読んでみよう。

青井によれば日本は戦後、憲法9条を単に理想と解するのではなく、「同条に<軍事の否定>を命じる法規範としての力を認めてきた」。だが平成26年、当時の安倍政権が集団的自衛権の行使を9条の「例外」と位置づける閣議決定をし、従来の政府解釈を百八十度転換した。

翌年には安保法制が成立し、以後「約10年かけて<憲法論の安全保障論からの切り離し>が進」んだ。それにより9条が命じる「軍事の否定」は無化された。

海上自衛隊の護衛艦「かが」の艦上で写真に納まる(左から)メラニア夫人、トランプ米大統領、安倍晋三首相、昭恵夫人 =2019年5月28日、神奈川県横須賀市の海上自衛隊横須賀基地(ロイター)

こうした軍事の「特別扱い」を、青井は、戦前に憲法「外」とみなされて軍部の独走を招いた「統帥権の独立」に重ねて批判する。

だが、右の論考には欠陥がある。第一に、9条が自衛隊の有り様に縛りをかけてきたのは事実だが、それを「軍事の否定を命じる法規範」とみる認識は行き過ぎである。

第二は安保法制が成立した背景、すなわち安保環境が悪化している現状を、全く考慮していないことだ。北朝鮮による弾道ミサイル発射や中国の軍備増強には一行も触れていないから驚く。

論壇の俎上(そじょう)にのせて批判すべきは、現実に即して対処した安倍政権ではなく、現実を直視せず、変わろうとしない革新だろう。

そんな革新の人たちには、国家基本問題研究所研究員の中川真紀が『正論』で解き明かした中国「ロケット軍」の脅威を巡る論考をぜひ読んでほしい。

中国には陸海空軍と同格のロケット軍がある。中国沿岸部などに多数の弾道ミサイル発射台を展開し、習近平指導部がいま、急ピッチで増強を進める軍組織である。

中でも日本の脅威となるのが、2019年に確認されたMRBM(準中距離弾道ミサイル)のDF17だ。マッハ5以上の極超音速滑空ミサイルで、これにより「中国は日本の弾道ミサイル防衛『BMD』を突破する能力を獲得」した。核弾頭搭載のミサイルも、日本全土を射程に収める最新型のDF26が配備されるなど性能が向上した。

中川は陸上自衛隊の元幹部で、基礎情報隊長などを務めた。中国の脅威に対処するには、防衛能力の強化はもちろん、抑止のための反撃能力の構築や、シェルター整備を急ぐべきだと訴える。

保革を超えて、喫緊に取り組むべき課題だ。(敬称略)

筆者:川瀬弘至(産経新聞論説副委員長)

2025年4月24日産経ニュース【論壇時評5月号】より

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