
日本国憲法
This post is also available in: English
日本国憲法が施行されて78年を迎えた。
日本は厳しい安全保障環境下にある。日本有事へ容易に転化する台湾有事の懸念は消えない。ウクライナを侵略する共犯者であるロシアと北朝鮮は反日的な隣国だ。中国と北朝鮮は軍拡に余念がない。中露の海空軍は合同パトロールと称する対日威嚇をためらわない。
そこへ、従来の常識が通用しないトランプ米大統領が再登板し、世界の安保、経済環境を揺さぶっている。
外交防衛を妨げてきた
戦後の平和を憲法第9条は守ってこなかった。左派勢力は9条を奉じ防衛力整備を妨げてきた。9条の欠陥を自衛隊と日米安全保障体制が補ってきた。
トランプ氏は3月、日米安保条約への不満を表明し、波紋を呼んだ。「われわれは日本を守らねばならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と条約の片務性を問題視した。
相互防衛の代わりに日本は基地を提供し、これは米国の世界戦略にも寄与してきた。さらに、集団的自衛権の限定行使を認めた安保関連法の制定で、日本の存立が脅かされる場合には日米は集団的自衛権の行使で守り合える関係になった。中国の脅威を前に、トランプ政権といえども日米安保を投げ捨てる蓋然性は低いだろう。
そうだとしても、外交安保の基軸を日米同盟に置く日本は、米軍最高司令官の大統領が同盟の在り方に疑念を持つことに不安を覚えざるを得ない。防衛問題と切り離しているとはいえ、関税などの経済交渉での対米姿勢にも影響しかねない。

北大西洋条約機構(NATO)諸国やフィリピンなど米国と同盟を結ぶ日本以外の国々は、フルスペックの集団的自衛権行使を前提に相互防衛を約束している。国力差があっても法的には対等に守り合う関係なのが世界の同盟の常識だ。
トランプ氏の方が世界の常識を踏まえている。日本が非常識なのは、戦争放棄や戦力の不保持を定める9条の解釈で、全面的な集団的自衛権の行使が禁じられているためだ。
どのような米大統領が今後現れるかはわからない。米世論も同様だ。9条のために唯一の同盟は不安定性を拭えない。
フルスペックの集団的自衛権行使を約束できない日本は、中国の脅威が増していても、米国以外の国とも同盟を結ぶことはかなわない。「日本はあなたの国を守らないが、あなたの国は日本を守ってほしい」と言えないからだ。米国が基地提供で同盟を結んだのは、たまたま国益が合致したためである。
9条は、条約上の同盟国を増やすという、国民の命を守るダイナミックな外交の展開も許さない。日本は準同盟の構築しかできないのだ。
反撃能力保有に進む日本だが9条が海外での武力行使を禁じているため、北朝鮮に拉致された日本人被害者の居場所が分かっても、自衛隊の特殊部隊は救出作戦を認められない。

緊急条項の議論足りぬ
9条を持つ現憲法は平和憲法というより、一部に反国民的性格を帯びているということだ。いつまで9条の欠陥、限界から目をそらすつもりか。
衆参の憲法審査会の憲法改正への歩みは蝸牛(かぎゅう)のようで、自衛隊の明記すら合意形成していない。極めて残念だ。
実は、自衛隊明記だけでは9条の欠陥は正せない。9条2項を削除し、世界の民主主義国と同様に、国家国民と国際秩序を守る「軍」の保持を認める必要がある。
ただし、その前段として、自衛隊を明記する改憲に意義がないわけではない。憲法学者に多い無意味な自衛隊違憲論は解消できる。改正を機に、義務教育などで抑止といった防衛力の役割を伝えることで、国民の安保常識の底上げを図れる。
南海トラフの巨大地震や首都直下地震、富士山噴火、有事などに備える緊急事態条項創設も急務だ。だが、憲法審が選挙困難事態への対応ばかりを論じているのには呆(あき)れるほかない。

緊急事態の本質的課題は行政府(内閣)に一時的に権限を集め、緊急政令などで国民と憲法秩序を守らせる備えをとることだ。この緊急権は国連が採択した国際人権規約(B規約)も認める世界の常識である。
改正に前向きな政党は、国民のために憲法があると自覚し、憲法審などで改正条文案起草に進んでもらいたい。
◇
2025年5月3日付産経新聞【主張】を転載しています
This post is also available in: English