
高関税政策を巡り、2回目の日米閣僚交渉に臨む赤沢経済再生相(中央)=5月1日、ワシントン(代表撮影・共同)
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国益を守るためにも安易な譲歩は禁物である。石破茂首相が「国難」と位置づける米国の高関税政策に対しては、この姿勢を貫くことこそが重要だ。
赤沢亮正経済再生担当相がベセント米財務長官らと2回目の関税交渉を行った。双方は貿易拡大や非関税障壁、経済安全保障などで議論を進め、5月中旬以降、集中的に閣僚交渉を行うことなどで一致した。
記者団から6月の首脳合意が念頭にあるかを問われた赤沢氏は「そういう段階に入れればいい」と期待感を示した。6月には先進7カ国(G7)サミットがあり、これに合わせて首脳会談を開くことはあり得よう。
トランプ関税が及ぼす打撃の大きさを踏まえれば交渉を長引かせるわけにはいかない。トランプ大統領の言動で状況が一変する経済の不確実性を減じるため、交渉の行程を想定しておくことにも意味がある。

そうであっても、6月合意に固執し、拙速に交渉することは避けるべきだ。石破首相が「早さを優先するあまり国益を損なうものであってはならない」と述べたのは当然だ。この言葉通りに石破政権が毅然(きぜん)と対処できるかが厳しく問われよう。
7月にはトランプ政権が相互関税の一部を90日間停止した措置が期限を迎える。今夏には参院選もある。それまでの決着を図ろうと石破政権が前のめりに動けば、トランプ政権から足元を見透かされ、大幅な譲歩を迫られることになりかねない。
トランプ氏は対日交渉などで「われわれは有利な立場だ」と強気を見せる。だが内実は、金融市場の混乱や支持率低下に直面する中で、できるだけ早く交渉の成果を誇示したいという焦りがあるのではないか。交渉で冷静に見極めるべきことだ。
赤沢氏は2回目の交渉での議論の詳細については明かさなかったが、米国車に対する日本の安全規制や米国産農産物の輸入拡大策などが焦点とみられている。国益を毀損(きそん)することなく米国を納得させられるよう交渉カードを綿密に検討すべきだ。
トランプ氏は対日交渉の成功を弾みに他国との交渉を優位に進めたいのだろう。裏を返せば日本が交渉をどう着地させるかは各国の関心事でもある。石破政権が安易に譲歩すれば、日本に対する世界の信頼が損なわれることも肝に銘じるべきだ。
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2025年5月4日付産経新聞【主張】を転載しています
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