アシックスが超軽量マラソンシューズ「メタスピードレイ」を8月中旬に発売すると発表した。主要メーカーの製品では最軽量クラスとなり、ナイキなど海外勢に押されていた市場で攻勢に出る。
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アシックスが発表した新型マラソンシューズ「メタスピードレイ」。片足129グラム(27センチ)と超軽量だ=5月2日、東京・有明アーバンスポーツパーク(上野嘉之撮影)

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アシックスは片足129グラム(27・0センチ)の超軽量マラソンシューズ「メタスピードレイ」を8月中旬に発売すると発表した。主要メーカーの製品では最軽量クラスとなり、ナイキなど海外勢に押されていた市場で攻勢に出る。従来モデルを改良して反発性を高めた2モデル、歩幅の長いストライド走法向けの「メタスピードスカイトウキョウ」と、歩数が多いピッチ走法向けの「メタスピードエッジトウキョウ」も7月下旬に発売する。9月に開催される世界選手権東京大会(世界陸上)の出場選手に供給し、金メダルを狙う構えだ。

新型「メタスピード」シリーズのグローバル発表会。海外から80人が来日して参加した

発表会に各国から80人が来日

5月2日に有明アーバンスポーツパーク(東京都江東区)で開かれた発表会には、世界各国から来日したランニング専門メディアの記者ら80人を含め、総勢約120人が詰めかけた。

壇上であいさつに立ったアシックスの廣田康人会長兼CEOは、「アスリートと緊密に連携し、より速く走るためのプレミアムなランニングシューズを開発している」と胸を張った。

壇上であいさつするアシックスの廣田康人会長兼CEO

マラソンなど陸上競技のロード種目では、2017年にナイキが厚底レーシングシューズを発売して世界中のレースを席捲。薄底だったアシックスは窮地に陥った。そこで2019年に廣田氏のかけ声のもと、新型シューズ開発のための「Cプロジェクト」を発足させた。Cは「頂上奪還」の頭文字だ。

その後、2021年にメタスピードシリーズの初代モデルを発売して追撃。22年、24年にも改良型を発売しており、今回の「レイ」「スカイトウキョウ」「エッジトウキョウ」は4世代目にあたる。

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「1グラム1グラムを削る戦い」

新型は、ミッドソールのクッション材にこれまでより15%軽く、反発性が13・7%高い新素材「FF LEAP(エフエフリープ)」を導入。スカイトウキョウとエッジトウキョウはいずれも片足170グラムで、従来モデル(スカイパリ、エッジパリ)から15グラム軽くした。

さらに、129グラムの「レイ」では、ミッドソール全体にFF LEAPを採用。アッパー(甲被)に極薄の素材を用いたほか、アウトソール(靴底部分)も厚さを半分にしたり、面積を減らしたりして軽量化を追求した。「1グラム1グラムを削る戦いだった」(開発担当者)という徹底ぶりだ。

新型「メタスピード」シリーズの3モデル。最軽量の「レイ」(中央)、ピッチ走法向けの「エッジ」(右)、ストライド走法向けの「スカイ」
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東京世界陸上に向け開発加速

かつて厚底化の開発競争に出遅れたアシックスは、2021年の箱根駅伝で着用選手ゼロという屈辱を味わった。しかし同年にメタスピードシリーズを発売して選手の支持を取り戻し、今年の箱根駅伝ではシェア25%台まで回復した。

また24年1月には、メタスピードを履いた前田穂南選手が大阪国際女子マラソンで2時間18分59秒の日本新記録を樹立。トップアスリートの間で「記録を狙えるシューズ」との信頼を築きつつある。

価格は「レイ」が3万3000円、「スカイトウキョウ」と「エッジトウキョウ」が2万9700円(いずれも税込)。

40年前と同じ「超軽量への挑戦」

アシックスは過去にも超軽量マラソンシューズを開発していた。1985年、片足100グラム(25・5センチ)の「マラソンソーティUL-100」を発売し、陸上競技界をアッと言わせた。ただ、ソールの厚さが現在の3分の1程度で、足を痛めやすく耐久性も劣ったため、選手の間で定着しなかった。

40年前の経験は、129グラムの新作に影響したのだろうか? 開発を主導したCプロジェクトの竹村周平部長は、「現在はシューズの性能や役割が昔と異なる。100グラムを目標にしたわけではない」と説明する。

一方で「当時はアスリートの要望があって超軽量シューズを作ったのだろう。今回も要望を受けて開発した」と指摘。「軽量化に挑戦するアシックスのスピリットは変わらない」とアピールした。

ナイキが火をつけた厚底レーシングシューズの性能は、着地の衝撃を推進力に変える高反発素材やカーボンプレートがカギを握る。これまでメーカー各社は、厚底化による重量増に妥協しつつ、ランニング効率の向上を競ってきた。

しかし厚底技術の進化が一巡した現在は、「軽さ」へのニーズが再び高まり、差別化のポイントになっている。アディダスは2023年に片足138グラム(27・0センチ)の厚底シューズを投入し、好記録を連発した。こうした流れの中、アシックスは129グラムという軽さで先頭に躍り出た形だ。

「メタスピードエッジトウキョウ」の軽量化について説明するアシックスの開発担当者
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「選手の要望をすぐに反映」

アシックスはアスリート優先を大方針に掲げており、メタスピードシリーズの開発も、契約する多くの一流ランナーと協力して進めた。2日の発表会には、パリ五輪マラソン銀メダルのバシル・アブディ選手(ベルギー)、五輪4大会連続出場のエイリッシュ・マッコルガン選手(イギリス)、男子ハーフマラソン日本記録保持者の太田智樹選手(トヨタ自動車)らが登壇し、メタスピードの特徴をそれぞれの言葉で語った。

マッコルガン選手は産経新聞のインタビューに対し「アシックスは選手の話をよく聞き、すぐに反映させてくれる」と信頼を寄せた。

新型メタスピード発表会のステージでトークに臨むエイリッシュ・マッコルガン選手(イギリス)

履きこなすには相応の実力が必要

新しいメタスピードシリーズを記者が履いて試走をしたところ、軽さを実感するとともに、超軽量シューズならでは注意点も見えてきた。

「レイ」は沈み込んで跳ね返るバネのような感覚が特徴だ。この反発力と軽さは大きな武器になる反面、走行中の安定感は乏しい。極薄のアッパー部分のホールド感も心もとなく、油断すると足元がふらつきそうになる。

このシューズを履きこなせるのは「レース終盤までスピードを持続し、力強い走りで押していけるトップ選手」(アシックスの担当者)という。後半にスタミナ切れを起こすようでは、走りのフォームやリズムを崩し、ペースが落ちたり故障を招いたりするリスクがあるだろう。カーブや下り坂の多いコースでは足をくじく恐れもある。

一方、筆者が試したもう1足「スカイトウキョウ」は、反発力と安定感のバランスがよく、安心して走りきることができると感じた。「エッジトウキョウ」も同様の構造で、トップ選手から競技志向の市民ランナーまでをターゲットにしている。

性格の異なる3モデルが同時発売されるため、試着や試走で感触を確かめて選択する必要がある。

筆者:上野嘉之(産経新聞)

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