
投票箱に入れられる一票。投票率は下降傾向にある
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納税額の要件を撤廃し、25歳以上の全ての男子が、衆議院の選挙権を得た普通選挙法の公布から5月で100年を迎えた。
選挙は民主主義の基本だ。国民は選挙で選んだ国会議員や地方議員、首長に法律の制定や行政などを託す。100年の節目を機に、その重みを改めて考えたい。

第1回衆院選が行われたのは明治23(1890)年である。議会の主な役割は予算の議決であり、当初の選挙権は、直接国税を年間15円以上納める25歳以上の男性のみだった。
これは国民全体の1%に過ぎない。だが、日清・日露の戦役などを経て、命をかけて国を守る国民が、政治に関与できないのはおかしいという思想が広まった。大正時代になると、普通選挙を求める国民運動が起こり、大正14(1925)年5月5日、普選法が公布されて納税要件は撤廃された。
戦後の昭和20(1945)年12月に普選法が改正され、20歳以上の男女が選挙権を持った。今年はそれから80年の節目でもある。
1%だった有権者の割合は、大正14年の普選法公布で約20%となり、昭和20年に約50%に拡大した。平成28年には選挙権が18歳以上に引き下げられ、国民全体に占める割合は現在、80%以上に達している。

残念なのは、選挙権は拡大したのに投票率が下降傾向にあることだ。昭和21年衆院選の投票率72・08%に対し、令和6年衆院選は53・85%だった。有権者のほぼ2人に1人が選挙権の行使を放棄したことになる。民主主義国家として問題だろう。
ベルギーやオーストラリアのように罰則付きで投票を義務とする国は少なくない。そうした国の投票率は90%近くに上るが、自らの意志で政治に関与することが本来あるべき姿だ。
良くも悪くも政治は国民の鏡である。政党や政治家に不満があるなら投票で示すべきで、選挙権を行使しなかった人が不満をぶつけても説得力はない。
松下電器(現パナソニック)創業者の松下幸之助は自ら創刊した雑誌『PHP』で「国民が政治を嘲笑しているあいだは嘲笑に値する政治しか行われない」と記し、国民が政治の部外者となることを戒めた。夏には参院選がある。選挙権を行使しない選択肢はない。
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2025年5月20日付産経新聞【主張】を転載しています
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