訪日外国人客に対する消費税の免税措置を巡る存廃議論が起きている。商品の購入時に免税する現行制度を悪用し、外国人による不正転売が横行。訪日客の購買意欲は旺盛で、免税措置を撤廃しても影響は少ないとの見方がある。
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インバウンド用の免税カウンター=大阪市中央区

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物価高などを背景に消費税の減税が注目される中、訪日外国人客に対する消費税の免税措置を巡る存廃議論も起きている。政府は「観光立国」実現に免税措置が必要との立場だが、与野党からは「訪日客のみ優遇されている」などと廃止を求める声が相次ぐ。商品の購入時に免税する現行制度を悪用し、外国人による不正転売も横行。来年11月には出国後に返金する方式に変更されるが、税収増への期待も相まって廃止論がくすぶる。

「消費税免税措置はやめてしまうべきだ」。昨年12月の衆院財務金融委員会で、自民党の中西健治議員はこう指摘した。円安の状況から訪日客の購買意欲は旺盛で、免税措置を撤廃しても影響は少ないとの見方からだ。

政府によると、令和5年の外国人旅行者の免税購入額は約1兆5855億円。免税措置を撤廃すれば、10%の消費税額に相当する約1600億円の税収増が見込まれる。大阪・関西万博の開幕などで、今後も訪日客の増加とともに免税購入が拡大する可能性は高い。

こうした状況に、大阪府の吉村洋文知事(日本維新の会代表)も4月21日、報道陣の取材に「負担能力のある海外のお客さんに、日本人と同じように消費税の負担をお願いすることが筋だ」と述べ、国に免税措置の廃止を求める考えを示した。

税関の任意検査は回避

免税措置の廃止論を後押しするのが、現行制度を巡る不正の問題だ。訪日客を装った外国人が消費税を免税された商品を大量に購入した上、日本国内で免税分を上乗せして転売し、利ざやを稼ぐケースが横行してきた。

政府がまとめた統計によると、令和4~5年度に免税品を1億円以上購入した出国者690人(計2332億円)のうち、税関検査で捕捉できたケースは1割程度にとどまる。出国時の税関検査はあくまで任意のため、旅券提示を拒むなどして検査を回避したまま出国するという。また、捕捉できたケースの9割超が免税品を所持しておらず、「課税してもほぼ滞納となる」(政府関係者)のが実情だ。

そこで政府は消費税を含む価格で販売し、出国段階で免税手続きをとる「リファンド方式」の導入を決定。関連法案が3月に可決、成立し、システム変更など準備期間を経て8年11月から実施される。消費税に詳しい関係者は「不正転売の問題は新たな方式で解決できるはずだ」と話す。

米英は免税措置なし

それでも、消費税の免税措置の廃止を求める声は根強い。何より税収増が期待できるからだ。

消費税の課税権はそもそも、購入品の消費国にあるとするのが国際的なルールとされ、日本もこの考えから輸出品に消費税を課していない。訪日客が購入品を国外へ持ち出す場合も「事実上の輸出」とみなし、免税措置を適用してきた。

石破茂首相は「日本でしかできない買い物というものもある」(2月4日の衆院予算委員会)と述べるなど、観光面の効果なども考慮し免税措置を続ける姿勢を示す。ただ、消費税のような付加価値税がない米国は大半の州で免税措置がなく、英国も2020年の欧州連合(EU)離脱に伴い廃止した。

国民民主党の玉木雄一郎代表も自身のユーチューブチャンネルで今春、米英などの事例も挙げながら「日本人が豊かになる分野に税収を回せる」と免税措置の見直しを呼びかけた。夏の参院選が迫る中、各党などによる議論は続きそうだ。

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不正抑止へ欧州ルール「リファンド方式」導入

訪日客に免税品を消費税込みのまま販売し、出国時に消費税分を還付する「リファンド方式」。欧州を中心に採用されてきた外国人観光客への免税ルールが、日本でも来秋導入される。訪日客による高額免税品の転売が相次ぐ中、期待されるのは不正の「抑止力」だ。

国税庁の資料などによると、リファンド方式で免税対象となるのは購入日から90日以内の商品。購入記録が免税店から国税庁の免税販売管理システムに送られ、税関は訪日客の出国時にシステムで購入履歴を確認、対象商品の持ち出しがあれば免税を認める仕組みだ。免税店はシステム内の税関の履歴をもとに、訪日客に消費税分を銀行振り込みやクレジットカード送金などで還付する。

免税店が販売する際に消費税を差し引く現行方式では、たとえ免税品を国内で大量転売していても、出国時の税関検査で転売を確認できなければ、消費税を徴収するのは困難だ。リファンド方式であれば、税関検査で免税品の持ち出しを確認できないと税還付を受けられず、転売不正の抑止効果が期待できる。

一方で、化粧品や酒類といった「消耗品」の免税購入上限額は従来、1日あたり50万円となっているが、リファンド方式では撤廃される。代わる形で税抜き100万円以上の商品を販売する際、免税店側がブランド名や型番などの情報を国税庁に提供し、高級品のすり替えなどを防止する。

リファンド方式の導入で、消耗品とそれ以外の「一般物品」の区別もなくなるため、政府は免税店側の手続き簡略化につながるとみている。ただ「税関検査が増えて空港が混雑するのでは」とも懸念されており、新方式導入までに十分な態勢整備も求められる。

「免税廃止は世界標準からの逸脱」

香川大の青木丈教授(租税法)

消費税は物品を「消費する地」で課税するというのが、世界的な基準となっている。外国人が日本で食事や宿泊をした場合、消費した日本で課税しなければならないが、海外へ持ち出す物品には日本で課税すべきではないから免税される。このルールの廃止は世界標準からの逸脱といえる。

大手自動車メーカーは輸出車の部品を国内で仕入れ時に消費税を含む価格で購入するが、商品となった車は国外で消費されるため、輸出時には税抜きで出荷される。仕入れで支払った消費税については毎月、国から多額の還付を受けられる。

税収増を見越して輸出に絡む税還付の撤廃を主張する人もいるが、消費地で課す仕組みが世界標準となっており、日本だけで決められる話ではない。外国人旅行者に対する消費税の免税も理屈は全く同じだ。

旅行者を装った転売は脱税と変わらず、国税や税関当局が知恵を絞って取り締まるしかない。ただ、免税の仕組みに問題があるから免税自体をなくそうとするのは、論理が飛躍し過ぎだ。いかに不正を取り締まるか、が論点だろう。

筆者:倉持亮(産経新聞)

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