
「国安法施行5年」の横断幕とシャッターを下ろした旧店舗=香港(藤本欣也撮影)
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中国主導で香港国家安全維持法(国安法)が施行されて6月30日で5年となる。
中国の習近平政権は国安法は香港に「安定」と「繁栄」をもたらしたと主張し、さらなる引き締め強化を香港政府に指示した。
国際社会は香港への関心を保ち、香港に高度な自治を認める「一国二制度」を反故(ほご)にした強権体制下の市民を支えるため、香港政府への圧力を強めるべきだ。
中国政府で香港政策を担当する香港マカオ事務弁公室の夏宝竜主任は、国安法施行5年のフォーラムで、国安法施行によって「反中乱港(中国に逆らい香港を混乱させる)分子に強力な打撃を与えた」と民主化勢力への弾圧を正当化した。
国安法は「香港の長期的な繁栄と安定の維持」に寄与するとも強弁した。
冗談ではない。市民にとっては国家安全が全てに優先する「国安治港」(国安による香港統治)の下、言論・集会の自由が奪われていった5年間だ。レッドライン(越えてはならない一線)が曖昧な国安法により市民は自己規制を迫られ、社会は沈黙を強いられている。
見せかけの「繁栄」と「安定」に意味はない。

T中国の民主化運動が武力鎮圧された1989年の天安門事件以降、香港では毎年6月4日、ビクトリア公園で犠牲者を追悼する「ろうそく集会」が行われてきた。30年以上続いた同集会は香港市民にとって重要な公民教育の場でもあったが、国安法施行後、同集会も警察によって開催を阻止されている。
しかし忘れてならないのは、香港市民は今年も、厳戒態勢が敷かれた公園に花束を抱えて現れたり、ベンチで電子ろうそくを手に祈りをささげたり、聖書を読んだりして追悼活動をしたことだ。拘束されるのは覚悟の上で行った無言の抵抗であり、市民がともしてきた良心の火は容易に消せないことを中国・香港当局は思い知るべきだ。
香港でこの5年の間に、愛国教育が強化されたことも座視できない。中国が「抗日戦勝80年」と位置付ける9月3日には中国本土同様、香港でも抗日行事が予定されている。これも中国式愛国教育の一環だが、反日教育は断じて容認できない。日本政府は事態を重視し、香港政府に抗議すべきである。
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2025年6月29日付産経新聞【主張】を転載しています
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