指揮者・山田和樹が、ベルリン・フィルにデビューした。音楽監督を務めるバーミンガム市交響楽団と来日し、日本ツアーを行っている。
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ベルリン・フィルを指揮する山田和樹©Bettina Stoess

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指揮者、山田和樹(46)が6月12~14日、世界最高峰のオーケストラの一つとされるベルリン・フィルにデビューした。同フィルの定期公演を指揮した日本人指揮者は2016年の小澤征爾以来。サン=サーンス「交響曲第3番『オルガン付き』」などのプログラムで聴衆を魅了し、成功を収めた。山田は「ベルリン・フィルの音楽の推進力を感じました」と話す。音楽監督を務めるバーミンガム市交響楽団と来日し、日本ツアーは28日から始まる。

獰猛さ感じる演奏

小澤は何度もベルリン・フィルを指揮しているので、新たな日本人指揮者の起用は2011年の佐渡裕以来となる。当日のプログラムはイタリアのレスピーギ「ローマの噴水」、武満徹「ウォーター・ドリーミング」、後半にサン=サーンス。メインの作品にドイツものではなくフランスの作曲家を据えた。山田はスイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、モンテカルロ・フィル芸術監督兼音楽監督などを務め、フランスものの演奏経験が豊富。しかし、ベルリン・フィルにとってサン=サーンスの「オルガン付き」は10年ぶりだった。演奏後、客席はスタンディング・オベーションに沸いた。

「ベルリン・フィルは本番でこんなに演奏するんだ、と驚きました。こんなオーケストラは見たことがありません。よい意味で獰猛さを感じました。初日の休憩のときに、コンサートマスターの樫本大進さんからメールが入っていました。『音が突進してくる。迫ってくる』と返しました。音楽の推進力を感じました。ドレスデン歌劇場管弦楽団にも感じたことです。この2つのオケは段違いです」と話す。

ところで山田は2026/27シーズンからベルリン・ドイツ交響楽団(DSO)の首席指揮者兼芸術監督に就任するというニュースが4月にもたらされたばかり。同響は1946年、西ベルリンのアメリカ軍占領地区放送局のオーケストラ(RIAS響)として発足。初代のフリッチャイ、マゼールやシャイーらが首席指揮者を務めた。

武満徹作品でフルートのソロを吹く首席奏者のエマニュエル・パユ©Bettina Stoess

また、これまでサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、フランス国立管弦楽団への定期的な客演をし、ミラノ・スカラ座フィル、クリーブランド管弦楽団、ニューヨーク・フィルなどにもデビューした。着実に世界的な指揮者の階段を踏み上がっている。

「ベルリン・ドイツ響はドイツの伝統ある太い、強直な音楽を奏でます。でも臨機応変な機能性を持ち、レパートリーが広い。可能性のあるオーケストラです。昨年4月、ベルリン・ドイツ響を指揮して、その後ベルリン・フィルの指揮の話が決まり、またベルリン・ドイツ響を指揮したら今年、シェフの話がきました。ストーリーの流れの中での話です。ただ、バーミンガム市響で頑張っていなかったら絶対なかったことです。2020年の新型コロナの時期、バーミンガムで指揮する話があり、絶対にワクチンを打たないと言っていた私が、バーミンガムに行くためにワクチンをすぐに打ちました。奥さんが驚いていました」と笑う。

足し算が掛け算に

バーミンガム市響の日本ツアーは全8公演。イギリスの大指揮者ヘンリー・ウッドがラベルより先に編曲したムソルグスキー「展覧会の絵」、山田が「ハートフルな音楽をする」という注目のチェリスト、シェク・カネー=メイソンが演奏するエルガー「チェロ協奏曲」などがプログラムに組まれている。と同時にツアーに帯同するアシスタント指揮者を募集し、若手指揮者のセミナーを開き、ショスタコービチの「祝典序曲」のバンダ(別動隊)に高校生の吹奏楽部を起用するなど、社会に開かれたオーケストラの活動を積極的に展開する。

「コロナの時期に公演ができなくなり音楽の必要性が問われました。私たちは必要性を証明しなければいけない。オーケストラが来日して立派な演奏をするだけではお客さまも固定化されてしまう。コロナの後、お客さまが減ったオーケストラ、同じ水準に戻したオーケストラ、増えて成功したオーケストラの3つがあります。一方通行の今までと同じやり方では通用しません」と話す。

山田和樹は第56回サントリー音楽賞を受賞、6月25日に贈賞式が行われた=東京都港区のサントリーホールブルーローズ

山田とバーミンガム市響は8月1日、今年もイギリス最大の音楽祭、BBCプロムスに出演する。約7000席は売り切れという。

「若い時は誰かと違う演奏をしなければいけない、と強く思いました。そのエネルギーはすごかった。でもそれは足し算のエネルギーです。自分が頑張っちゃうと、足し算のままなのです。年を重ねていいことは、自分をあまり出さなくていいのです。足し算がいつの間にか掛け算になって、勝手に増幅されていきます。今、そのループに入っています。だから楽なのです。そして結果の責任は私が持つから、と好きにやってもらいます」

バーミンガム市響の公演は6月30日、東京オペラシティコンサートホール、7月1、2日、サントリーホールほか。詳細は公式サイトへ。

筆者江原和雄(産経新聞)

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