JOCが、夏冬計7度の五輪出場経験を持つ参院議員の橋本聖子氏を新会長に選出した。初の女性会長となった橋本氏だが、信頼回復の道は険しいことを覚悟すべきだ。
Seiko Hashimoto JOC

日本オリンピック委員会(JOC)新会長に選出され、記者会見で写真撮影に応じる橋本聖子氏(鴨川一也撮影)

This post is also available in: English

日本オリンピック委員会(JOC)が、夏冬計7度の五輪出場経験を持つ参院議員の橋本聖子氏(60)を新会長に選出した。

札幌冬季五輪の招致失敗は記憶に新しく、国民の多くはJOCを相手にしていない。初の女性会長となった橋本氏だが、信頼回復の道は険しいことを覚悟すべきだ。

この十数年、JOCを統括組織とするスポーツ界は、意思決定に主体的に関わる能力も姿勢も欠いていた。競技団体のガバナンス(組織統治)の制度設計は国に任せ切りで、東京五輪・パラリンピックの開催を巡る議論でも影は薄かった。

JOCの新会長に選出され、記者会見する橋本聖子氏=6月26日午後、東京都新宿区(鴨川一也撮影)

橋本氏は就任会見で将来の五輪招致が「使命」と述べたが、いまのJOCに旗を振る資格があるとはいい難い。なぜ日本に五輪が必要なのか、これまで声をからして説明してきたのはアスリートたちだった。

再び五輪を呼ぶ機運は、それでも盛り上がらない。橋本氏が世論の風向きを変えるつもりなら、ありきたりな理念を口にするだけでは不十分である。

JOCが初の会長選を行ったのは、前進には違いない。橋本氏と日本サッカー協会前会長の田嶋幸三氏、JOC副会長の三屋裕子氏が候補者となり、無記名投票で橋本氏が選ばれた。

本来なら、存在意義に乏しい組織の再建策や、スポーツを通して社会を変えるための施策など、3人の訴えが世の中に見える形にすべきだった。候補者同士で議論を戦わすなど、投票までの過程に時間をかける手法もあったのではないか。

けがで療養中の山下泰裕前会長が、公の場に姿を現さなくなってから1年半以上になる。いまさら会長人事を急ぐ理由はなかったはずだ。手間も時間も省いた内輪の選挙は、中途半端な改革というほかない。

2030年冬季五輪・パラリンピックの招致断念を表明する札幌市の秋元克広市長(左)とJOCの山下泰裕会長=2023年10月11日午後、東京都新宿区

国との関係が強い日本体育協会(現日本スポーツ協会)からJOCが独立したのは、平成元年だった。政治からの自立と経済的な自立が当初の理念だが、会長選の結果は矛盾していないか。スポーツ界と国との距離をどう考えるのか、新会長には説明の責任がある。

橋本氏は自民党派閥の政治資金パーティー収入不記載事件に関わってもいた。JOCの信頼回復を掲げる以上、自身を律して職務に臨んでほしい。五輪招致を語るのはその後である。

2025年7月1日付産経新聞【主張】を転載しています

This post is also available in: English

コメントを残す