イスラエルとイランが停戦し、一時は世界の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡をイランが封鎖する可能性が懸念され原油価格が急騰した。日本のエネルギー調達の脆弱さを改めて認識させることになった。
Strait of Hormuz oil

ホルムズ海峡に面する海岸沿いの通り。海上には多くの船が見える=バンダルアバス市街

This post is also available in: English

イスラエルとイランが停戦した。

一時は世界の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡をイランが封鎖する可能性が懸念され原油価格が急騰したが、落ち着きを取り戻した。

だが、中東有事の火種は消えていない。日本は原油の95%超を中東から輸入しており、日本向けタンカーの8割がホルムズ海峡を通過する。今回の事態は日本のエネルギー調達の脆弱(ぜいじゃく)さを改めて認識させることになった。

過度な中東依存はエネルギー安全保障上も問題だ。原油調達先の分散を進め、地政学リスクを軽減する必要がある。

日本は1970年代に起こった2度の石油危機を経て、原油調達先の多角化を進めてきた。石油危機前に70%台後半だった中東依存度は一時は60%台まで低下した。

ホルムズ海峡

ただ、主要調達先だったインドネシアが生産量減少と経済発展に伴う消費量の増加で原油の純輸入国に転じるなど、一部産油国からの調達が大きく減少した。ウクライナ侵略に伴う制裁でロシア産原油の輸入を禁止していることも中東依存が強まることにつながった。

こうした中で、調達先として期待されるのが米国だ。米国はシェール革命によって世界最大の原油生産国になっており、トランプ政権も化石燃料の増産を推進している。同盟国である米国からの原油輸入を増やすことは、日本のエネルギー安保の強化にも資する。貿易赤字縮小を狙って高関税政策を進める米国にもメリットがある。

カナダ西部ブリティッシュコロンビア州キティマット地区にあるLNG基地(三菱商事提供)

原油の性質から、日本の製油所が中東産原油の処理に適した設備構成になっていることや、中東に比べて輸送日数が延び、調達コストが上昇することなどから米国からの輸入量は2%ほどにとどまっている。調達コストの上昇分を政府が補助することも検討すべきだ。

日本では石油危機を受けて、海外有事などで石油が輸入できなくなった非常時に備え、石油備蓄を義務付けた石油備蓄法が制定された。現在は国と民間を合わせて国内消費200日分を超える量が備蓄されている。

中東からの原油が滞れば、日本経済や国民生活への影響は計り知れない。備蓄だけにとどまらず、原油調達の分散化を進めることで、中東有事に備えなければならない。

2025年6月30日付産経新聞【主張】を転載しています

This post is also available in: English

コメントを残す