
ウランバートル市内のホテルに到着し、在留邦人らの出迎えを受けられる天皇、皇后両陛下=7月6日午後、モンゴル・ウランバートル(代表撮影)
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天皇、皇后両陛下が7月6日から13日まで、国賓としてモンゴルを訪問される。歓迎式典やフレルスフ大統領夫妻主催の晩餐(ばんさん)会などに臨席するほか、同国にあった収容所で亡くなった日本人抑留者の慰霊碑に供花される。
戦後80年の節目に、天皇陛下が抑留者の苦難をしのび、慰められる意義は大きい。国民も旧ソ連による非道な歴史を忘れず、犠牲となった人々に哀悼の誠をささげたい。
今回のご訪問はフレルスフ大統領の招待によるもので、友好親善が目的である。
同時に天皇陛下は、現地での慰霊を大切に考えていらっしゃる。ご訪問前の記者会見では、日本とモンゴルの友好関係を強調しつつ、抑留者について「心ならずも故郷から遠く離れた地で亡くなられた方々を慰霊し、その御苦労に思いを致したいと思います」と述べられた。
先の大戦末期、日ソ中立条約に反して満洲や南樺太、千島列島などに攻め込んだソ連は、終戦後に日本の将兵や民間人ら約57万5千人を不法に連行し、シベリアなどソ連各地やモンゴルの収容所に抑留した。そこで日本人は過酷な労働を強いられ、約5万5千人が亡くなった。
モンゴルに移送されたのは約1万4千人にのぼる。冬には氷点下30度にもなる極寒の地で、日本人抑留者は建築作業などに従事し、およそ2千人が命を落とした。

日本人抑留者が建てた首都ウランバートルの国立オペラ・バレエ劇場などは現在も使われており、その後の両国の友好関係の礎にもなっている。
天皇陛下は皇太子時代の平成19年にもモンゴルを訪れ、日本人抑留者の慰霊碑に深い祈りをささげられた。
一方、シベリアなどロシア領では日本政府の慰霊活動が十分に行われていない現実がある。戦没者の慰霊は国家の責務であると、改めて指摘したい。
今回のご訪問で天皇、皇后両陛下は、フレルスフ大統領夫妻とともにモンゴル最大の祭典「ナーダム」を観覧するなど、さまざまな行事に臨まれる。
日本とモンゴルは昭和47年に国交を樹立して以来、関係を深めてきた。ロシアと中国に挟まれた位置にあるモンゴルだが、アジア有数の親日国家として知られる。両陛下のご訪問が、両国の絆を一層強めることは間違いない。心から感謝したい。
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2025年7月6日付産経新聞【主張】を転載しています
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