天安門事件翌日、広場の近くで戦車の行く手を遮った男性は中国民主化運動の象徴となった。施行から5年となった香港国家安全維持法はいわば、香港に進駐した〝目に見えない戦車〟。香港にも戦車の前に立ちはだかる人々がいた。国安法の下で自由が奪われ、一国二制度が死んだ香港社会の変容ぶりを浮き彫りにする。

「魂の自由を保ちたい」と語る周冠威監督=香港
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1989年の天安門事件の関連本が香港の一般書店から撤去されるように、香港の映画界で忌避される監督がいる。その監督の映画の上映や講演会は何度も、政府からの一本の電話で中止されてきた。たいていの投資家や俳優も協力を断る。それでも彼、周冠威(キウィ・チョウ)=(46)=は香港を出ていかない。
「私の名は映画界でタブー視されている、そう言っていいでしょう」
九竜地区のオフィスで対面した周は硬骨漢というより、笑顔を絶やさぬ穏やかな人物だった。
筆者:藤本欣也(産経新聞)
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2025年6月29日付産経新聞【「戦車」に立ちはだかる香港人 国安法施行5年③】より
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