
党首討論会に臨む各党首ら。拉致事件をめぐる熱い議論は聞けなかった=7月2日午後、東京都千代田区(酒井真大撮影)
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7月20日投開票の参院選は、政権選択選挙の様相を呈している。
衆院で自民、公明両党の少数与党政権となっている今、参院でも過半数を割れば政権交代や連立の枠組みの変更により、多くの党に政権与党となる可能性がある。だからこそ全政党は、重要政策に対する責任を明確にすべきである。
それがどうだ。主要8党の参院選公約をみる限り、北朝鮮による拉致事件を明確に記しているのは自民と立憲民主党、日本維新の会、参政党のみである。公明や国民民主党の公約にも言及はなかった。
これでは北朝鮮からは、日本国内の拉致問題に対する熱意は消えうせたとみえるだろう。
記載があれば、それでいいというものでもない。
自民の公約は「拉致問題は時間的制約のある人道問題及び国家主権の侵害です。すべての拉致被害者の即時一括帰国実現のため、あらゆる手段で全力を尽くします」と記した。立民、維新、参政の各党公約は、ごくごく短く触れたのみだった。

では自民は、あらゆる手段で全力を尽くしてきたのか。
例えば党総裁でもある石破茂首相は6月、招待されていた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を欠席し、トランプ米大統領との会談の機会を逃した。トランプ氏は第1次政権で北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と直接会談を重ね、拉致解決への進展を迫った経緯がある。
直後の会見でその理由を問われたトランプ氏は、「安倍晋三首相の最重要課題だからだ」と答えた。安倍元首相の粘り強い説得が功を奏した成果だった。あらゆる手段で全力を尽くすとは、こうした行動を指す。行動を伴わなくては、言葉は意味をなさない。

日本記者クラブ主催の与野党8党首による討論会でも、拉致事件をめぐる熱い議論を聞くことができなかった。同じ2日、北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの救出活動に携わる同級生の会が新潟市内で講演した。めぐみさんの母親、早紀江さんも電話で参加し、「政府から何の連絡もなく、むなしい思いで暮らしている」と話した。
全ての政党、全ての政治家、全ての候補者は、母の嘆きに耳を傾け、胸に刻むべきである。拉致事件の解決は、全国民にとっての最重要課題である。
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2025年7月11日付産経新聞【主張】を転載しています
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