
田の上を飛ぶ佐渡のトキの群れ。佐渡では保護活動が実り約580羽が生息するようになった(大山文兄撮影)
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国の特別天然記念物、トキの放鳥地として、石川県・能登半島の羽咋市が選ばれたことが発表になった。能登半島は2024年1月1日、大地震に襲われ、災害関連死も含めた死者625人という甚大な被害を出した。被災地の住民は復興のシンボルとしてトキが再び、能登の空を舞うことを心待ちにしていた。
地元協議会が放鳥地を決定
能登空港(輪島市)の会議室で開かれた地元4市と5町、県などで作る協議会は7月16日、金沢市に隣接する羽咋市の南潟(みなみがた)地区でトキを放鳥することを決めた。本州でのトキの野生復帰に向けた放鳥は初めてになる。
石川県は、野生のトキが本州で最後まで生息していた地だ。トキはかつて日本全国で見られたが農薬の使用や環境の悪化でその数を減らし、国は保護するために1981年、石川県で野生に残っていた5羽のトキを捕獲して、佐渡に移送した。繁殖させて増やす計画だったが2003年、最後のトキが死に、日本産のトキは絶滅した。その後、中国から贈呈されたトキを人工繁殖で増やして放鳥を行い、今では約580羽(野生下)まで回復した。
国はトキを定着させるために佐渡以外の地で放鳥を計画。候補地として手をあげた石川県は農家の協力を得て、トキのエサとなるドジョウやタニシなどのエサを増やすトキのエサ場づくりに取り組んできた。それらが認められ、石川・能登地域での放鳥が今年2月に決定していた。

協議会は、南潟地区が選ばれた理由について、放鳥を予定される15~20羽程度のトキが十分生息できるほどの広い水田と、エサとなる生物の生息状況が佐渡と匹敵する豊かさであることなどを評価した。
地元農家の喜びの声
羽咋市でトキの餌場となるビオトープを作り、放鳥に向けて準備してきた農家、濱田栄治さんは「羽咋にトキが再び戻ってくることを夢見て20年前、自分の米の玄米を入れる袋にトキをデザインした。袋のデザインが本当になるとは、嬉しくて仕方がない」と喜びの声をあげた。

濱田さんはエサを確保するために農薬や化学肥料も通常の半分に減らした。また、放鳥に向けて、トキの模型も準備しており、ビオトープに置き、トキが仲間と思って定着するのを願っているという。
これからの課題としては、トキのエサ場づくりに協力する農家がもっと増えてほしいという。
「まずは定着するのが先だが、トキが佐渡のように観光資源になり、トキのために環境に配慮した田で作った米が高く売れるようになってほしい」と期待を寄せる。

100歳の翁「ワクワクする」
「トキが故郷の空を舞うのを再び、この目で見ることができるなんて生きていてよかった」
70年以上にわたってトキの保護活動を行い、今年4月に100歳を迎えた羽咋市在住の村本義雄さんの声がはずんだ。

村本さんが最後に野生のトキを見たのは、約50年前に遡る。「あの時、トキが日本から完全に消えるかと思い、心が締め付けられました」と話す。
村本さんはトキを保護する中国との交流を深めると共に、子どもたちにトキを知ってもらうために、私費で自宅の敷地にトキの資料館を作った。トキの保護が縁で今年、秋篠宮が資料館に訪れたという。
「羽咋には希少なコウノトリも飛んでくる。トキとコウノトリが一緒に大空を舞うことを考えるとワクワクする」と話す。

「佐渡の初放鳥の式典にも参加しました。来年の羽咋の放鳥まで生きていたい」と語った。
トキを復興のシンボルにという、石川の住民の想いは熱い。
筆者:杉浦美香(Japan 2 Earth編集長)
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