
フェンタニルの錠剤(米麻薬取締局のホームページから)
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米国で過剰摂取による死亡が深刻化している合成麻薬「フェンタニル」の問題が、日本に波及してきた。
がんの痛みを抑える鎮痛剤などに使われるフェンタニルが密造・密売され、米国で依存者が激増した。麻薬の中でも格段に効果と依存性が高く、多幸感を求めて過剰摂取した結果、死亡する事例が相次いでいる。
米政府は「昨年は少なくとも約4万8千人が死亡した」と発表し、「フェンタニル危機」といわれる深刻な社会問題となっている。「中国から密造原材料が輸出され、メキシコ、カナダで精製されて米国に流入している」と米政府は批判する。
米国の路上や公園では異様な光景が見られる。体を「くの字」に曲げて動けなくなるという、フェンタニル中毒者に特有の姿が散見されるのだ。
密造フェンタニルは、品質管理された医療用のものとは全く異なる。動物用の鎮痛剤など不純物が混合され、肉体を壊死(えし)させ、死に至らしめる。安価で売買されるため拡散が速く、「最悪の麻薬」といわれる。
日本国内では医療用に処方されたフェンタニルを治療目的以外に悪用した事件が3年前に2件摘発された。密造品が出回った形跡は確認されていない。
だが、反社会的集団の介入でいつ流入してもおかしくないとの危機感を持つべきだ。警察は厚生労働省などの薬物当局と連携し、水際対策を徹底して流入を防がねばならない。国際機関との密な情報交換が必要だ。
トランプ米大統領がフェンタニル危機と高関税政策を連動させ、問題は複層化している。中国、カナダ、メキシコに「フェンタニル対策」名目で追加関税を発動した。中国は反発し、米中対立の激化要因となった。

その中で日本経済新聞が6月26日、中国組織がフェンタニルを米国に密輸する拠点を日本に作っていた疑いがあると報じた。警察は現時点で報道内容を確認していないとしているが、米中対立が日本に及ぶ恐れがある。政府は関連薬品の管理・追跡を徹底し、密輸は絶対に許さないとする日本の立場を米国に示す必要がある。
密造フェンタニルを国内に流入させず、国民を守ることが何よりも重要だ。米国のフェンタニル危機は日本にとって決して対岸の火事などではない。
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2025年7月16日付産経新聞【主張】を転載しています
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