
浅草の雷門通り周辺は多くの外国人観光客でにぎわう=6月27日午後、東京都台東区(山本玲撮影)
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長いモスクワ特派員生活を終えて日本に帰国した平成30年、最も驚いたのは外国人が目立って増えていることだった。これは大変なことではないかと思い、当時の社内で連載企画を提案した記憶がある。その後、筆者は埼玉県東部に住んでいるが、周囲の外国人は体感として本当に増えた。
統計上も外国人急増は明らかだ。令和3年末に約276万人だった在留外国人は1年に30万人以上のペースで増え、昨年末には約377万人となった。今、人口に占める外国人の割合は約3%である。
国立社会保障・人口問題研究所は令和5年、人口動態などに基づき、52(2070)年の人口に占める外国人の割合を10・8%と推計した。近年の急増ペースに鑑みれば、52年を待たずに10%を超えると予測する専門家もいる。外国人比率が10%以上というのは現在の欧米諸国並みである。
こうした状況を踏まえ、国松孝次元警察庁長官が会長を務める「未来を創る財団」は、外国人材の受け入れに関する「基本法」を制定すべきだと訴えている。先月、国松氏らが日本記者クラブで記者会見し、提言内容を説明した。

国松氏らの問題意識は、日本の人口急減と人手不足を埋め合わせる形で外国人流入が進んでいるのに、そのことを一体的に議論する場が少ないということだ。
人口急減や地方創生の議論では外国人活用にあまり話が及ばない。他方、外国人流入を巡る議論では住民との摩擦や外国人の処遇が中心テーマとなっている。これらを総合的に議論し、国が基本法を制定して戦略的に外国人を受け入れるべきだと国松氏らは話す。
提言によると、基本法では受け入れる外国人の基準を「地域、ひいては日本全体を豊かにする外国人材」とし、彼らの「日本経済・社会・文化への統合」を基本理念とする。
具体的な受け入れの流れは、①地方自治体が受け入れたい外国人材の技能水準や国籍、期間、規模について計画を策定する②国が安心・安全の確保やマクロ経済の観点から調整し、決定する③地方自治体が責任を持って外国人材を管理・支援する―という想定だ。「日本社会の安心と安全の確保」を基本法に明記することや、在留資格「地方創生」(仮称)の創設といったことも提案されている。
こうした内容への賛否や疑問は当然あろう。人口減少と人手不足の問題では、外国人ありきでなく、新技術導入による労働効率化を真剣に考えるべきではないか。国松氏らの提言は地域主導をうたっているが、地方自治体にその足腰はあるのか。「安心・安全」を確保するには警察を制度に絡ませるべきではないか―。
それでも、提言には議論に一石を投じる意義があると筆者は思う。外国人流入の問題で決定的に重要なのは、「動態をしっかりコントロールすること」だと考えるからだ。
急激に外国人が流入すれば、地域住民との摩擦が確実に起き、ひいては日本の国柄が変わってしまう。最悪なのは理念も計画もなく、なし崩しで外国人が増えてしまうことである。埼玉県川口市のクルド人問題を他の地域で繰り返してはならず、移民への反発が急速に高まっている欧米の轍(てつ)を踏んではならない。
真剣に国策を議論することが待ったなしである。
筆者:遠藤良介(産経新聞外信部長兼論説委員)
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2025年7月8日付産経新聞【一筆多論】を転載しています
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