
非日常空間の洞窟と露天というユニークな風呂を同時に楽しめる川上温泉の「半天岩窟風呂」=福島市(芹沢伸生撮影)
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福島市の市街地から西へ約16キロ。山あいに旅館が立ち並ぶ土湯温泉に着く。そこから狭い山道をさらに約1・5キロ進むと、創業400年を超える老舗の旅館「川上温泉」がある。奥土湯温泉郷の最も奥にある秘湯の自慢は、岩盤を掘って造った「半天岩窟風呂」。その名の通り半分は露天風呂、もう半分は洞窟の中にある。不思議な湯船につかると非日常の世界が広がる。なぜ、洞窟に温泉があるのか-。謎に迫った。
「川上温泉」は温泉と旅館、両方の名称で、湯の温度は57~60度ほど。泉質は単純泉で神経痛や関節痛、慢性消化器病などに効果がある。木造の建物はレトロ感にあふれている。
バブル真っ最中に
16代館主の阿部俊英さん(58)は「おばあちゃんの家に来たみたいといわれる」と笑う。1615年創業だが、途中で移転しているという。ただ、資料が乏しく、阿部さんは「今の場所で開館した正確な時期は分からない」と話す。

今から35年以上前のバブル期に露天風呂がブームになった際、川上温泉にはなかった。誘客のため露天風呂が不可欠と判断した、阿部さんの父で先代の義輔さん(故人)は新しく風呂を造ることを決意した。浮かんだアイデアは、露天風呂と岩壁を掘って造る洞窟風呂を合体させる奇想天外な風呂だった。
「当時、洞窟の温泉は全国で10軒くらいしかなく珍しかった。でも、父は何を考えているんだと思った」と阿部さん。建設当時はバブル真っ最中で日本中が建設ラッシュ。職人は大忙しで人手が足りなかった。重機と職人の手作業による工事はなかなか進まず「完成まで3年ほどかかった」と阿部さんは振り返る。
湯船には義輔さんのこだわりで青森産のヒバを使った。露天風呂は石や岩で造ることがほとんどで、木製の湯船は珍しく人目を引くが、メンテナンスは大変だという。ただ、他にない独特な雰囲気の風呂は狙い通り人気に。今年初めにもリクルートが運営する「じゃらん」の「まるで映画の世界なレトロ温泉ランキング」で3位に入っている。
冒険者のような気分に
半天岩窟風呂に入ってみた。湯船はT字型でIの部分が洞窟になっている。奥行きは6メートル。岩肌のゴツゴツした感じが野性的で照明にも雰囲気がある。深さが85センチあり170センチの記者でも腰近くまである。洞窟の中にいると冒険者のような気分だが癒やされる。不思議な「非日常空間」だ。

このほか、館内にはプールのような「万人(まんにん)風呂」もある。こちらは縦約10メートル、横約4メートル、深い場所の水深は1・2メートルもある。いずれの風呂にも浮輪が用意されていて、子供のようにはしゃぐ大人もいるという。
阿部さんは「温泉は生き物。温度や湧出量は日によって違う」といい「隠れ家的な魅力を楽しんでもらえれば」と話している。半天岩窟風呂と万人風呂は毎日男女が入れ替わり、宿泊すれば両方楽しむことができる。日帰り入浴も行っている。
筆者:芹沢伸生(産経新聞)
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