トランプ米政権との間で妥結した関税協議を巡り、対米投資などで日米の説明に差異が目立つ。十分に合意内容を詰めたのか。そんな疑念が拭えない。
tariffs trade deal Ishiba Akazawa

米国の関税措置に関する総合対策本部で発言する石破茂首相(左)。右は赤沢亮正経済再生担当相=7月25日午前、首相官邸(松井英幸撮影)

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十分に合意内容を詰めたのか。そんな疑念が拭えない。トランプ米政権との間で妥結した関税協議を巡り、対米投資などで日米の説明に差異が目立つ。合意履行に向けて憂慮すべきことである。

日米合意は、米国が日本に課す相互関税と自動車関税をともに15%とすることなどが柱だ。もっとも、合意文書は作成していない。それが日米の認識の差につながっているのではないか。

合意後すぐに石破茂首相がトランプ大統領と直接対話して認識を共有すべきだったのに、そうしなかった問題も大きい。

このままでは米側が独自の解釈を日本側に強いてくる事態もあり得よう。そうなれば日本の国益が毀損(きそん)されかねない。

首相や赤沢亮正経済再生担当相は臨時国会で、認識が異なる理由を明確にすべきだ。合意が適切に履行されると納得できるよう説明する責務がある。

ホワイトハウスで演説するトランプ米大統領=7月31日(ロイター=共同)

日本の対米投資を巡ってはトランプ氏がSNSに「日本は米国に5500億ドル(約80兆円)を投資し、利益の90%を米国が受け取る」と投稿した。

これに対し日本側は、5500億ドルは出資や融資、融資保証の上限額だと説明する。このうち米側が9割の利益を得るのは出資案件で、それは5500億ドルの1~2%にすぎないと赤沢氏は話している。

コメに関しても、日本の輸入量が75%増えるとする米側に対し、日本は具体的に明示していない。これで本当に国内農業が犠牲になることはないのか。

ベセント財務長官は、日本による合意の順守状況を四半期ごとに精査し、トランプ氏が不満なら関税を25%に引き上げるとの考えを示す。トランプ氏が独善的に合意を反故(ほご)にする余地を残すようなものである。

認識を共有する共同文書がないことが禍根を残した形だ。日本側は時間を要する文書作成を二の次とし、早期妥結を優先した。相互関税を25%にすると予告された1日までに合意できない事態を避けるためだ。

そうだとしても、米側の解釈で合意が歪(ゆが)められれば本末転倒である。政府は、日米間で早急に見解をすり合わせるよう米側に働きかけてもらいたい。

日米が認識を共有できない限り、トランプ関税に伴う経済の不確実性はいつまでも解消できないと銘記すべきである。

2025年8月1日付産経新聞【主張】を転載しています

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