
周囲に水濠が巡らされた前方後円墳型墓=8月15日、高松市
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日本古来の「前方後円墳」を現代風にアレンジした古墳型樹木葬が人気を集めている。少子化や核家族化でお墓の維持管理が難しくなり「墓じまい」を検討する人が増える中、宗派を問わず継承者、管理費も不要な点もニーズに合っているようだ。前方後円墳墓の築造・販売を手掛ける「前方後円墳」(東京)を創業した明治天皇の玄孫で作家の竹田恒泰氏(49)は「形だけ模したものではなく、古墳文化を現代風に忠実に再現した。亡くなった人を丁寧に葬送した古墳時代の人々の気持ちを伝えていきたい」と話している。
1基で5千人埋葬
今年5月に高松市に完成した前方後円墳型墓は墳丘の長さ約17・5メートル、1人用438区画、2人用1338区画、合祀(ごうし)墓を含め約5千人を埋葬できる。3世紀前半~中頃の大和地方(奈良)の前方後円墳をモチーフにしており、後円部には本物の古墳のように「鏡・剣・勾玉(まがたま)」(三種の神器)が納められる予定だ。
檀家(だんか)義務はなく、承継者不要、宗教も不問で、費用は1人用は55万7500円、2人用が71万7500円~98万円、合祀墓は18万2千円(いずれも税込み)。同社によると、今年3月に完成した千葉県野田市の古墳墓と合わせて2基で200人以上が購入済みで、新規築造の情報提供を求めるお客様登録は6千人以上に達しているという。
竹田氏は「前方後円墳は自然物でありながら人が形を整えていて、人間社会と大自然が一体になるかのようなところが日本人の価値観に合っているのでは」と推測する。
6年前に他界した夫の納骨式を9月に控える高松市在住の松井恵美さん(55)は「子供がいないので永代供養型で、自分が納得できるお墓を探していた。古墳墓が高松市で売り出されると知り、自分も入れる2人用区画の購入を即決した。荘厳な雰囲気で特別感があり満足している」と喜ぶ。
同社は大阪府大東市や松山市、広島市などでも築造を計画中で、「自身も入る前提で細部にまでこだわって造っている。5年間で大小合わせ100基を目指している」と竹田氏。「どんな人が同じお墓に入るのかを生前に知っておくことも重要だ」と野田市の古墳墓の購入者の交流会を開く予定で、「お墓をきっかけにつながりやコミュニティーができるのでは。死ぬまでにどうやってより良く生きるのかのお手伝いをさせていただきたい」と語る。

増える墓じまい
これまでは子供が親の墓を考えるのが一般的だったが、今は子供や孫に負担をかけないよう自分の墓を生前に用意しておくケースが増加。地方では先祖代々のお墓を継承する子供たちが進学や就職を機に実家を離れ「墓じまい(改葬)」が増える傾向にある。厚生労働省の令和5年度衛生行政報告例では全国の改葬件数は過去最多となる16万6886件に上った。
「終活」に関するサービスを提供する「鎌倉新書」(東京)が今年1月に行った調査では、購入した墓の種類は樹木葬が48・5%で最多、一般墓(墓石型)が17・0%、納骨堂は16・1%、合祀墓・合葬墓は14・6%となっている。霊園などが遺族に代わって遺骨を管理する「永代供養」型のニーズが高く、重視した点(複数回答可)は、お墓の種類が49・4%、金額は41・9%、継承者不要が36・7%だった。
高松市の古墳墓が造営された「高松ほたるローズガーデン」のマネジャー、大西吉夫さんは「新型コロナウイルス禍の影響もあり、人が集まることを避けるようになって親戚付き合いを断つ人も出てきた」と指摘。「地方でも周囲の目を気にしなくなり、葬儀は一般葬から家族葬へ、お墓も従来の墓石から樹木葬へと一気に切り替わったという印象だ」と説明する。
とりわけ「樹木葬は考え方が柔軟で、血縁を気にせず、友達同士で一緒の区画、霊園に入る『墓友』も増えている」(大西さん)といい、弔いの形の多様化は今後も進みそうだ。
筆者:和田基宏(産経新聞)
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