
ワシントンで握手する赤沢経済再生相(右)とラトニック米商務長官=9月4日(代表撮影・共同)
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トランプ米大統領が関税を巡る日米合意を実行に移す大統領令に署名した。7月の合意時には米側の履行時期などが明示されず、合意内容にも曖昧さを残したが、ようやく具体化へと動き出した。
署名により米国は2週間以内に日本車への関税を27・5%から15%に引き下げる見通しとなった。日本への「相互関税」を軽減する措置も8月7日に遡(さかのぼ)り適用する。併せて両政府は、合意時に日本が約束した対米投資に関する覚書を結び、共同声明も出した。
署名は当然で、遅すぎたほどだ。日本の要請にもかかわらず時間を要したのは、合意を急ぐあまり文書で詳細を詰めることを避けるという、石破茂政権の戦略が招いたツケでもある。
日本企業にとっては、トランプ関税がもたらす経済の不確実性が減じる意味は大きい。そうであっても、以前と比べ格段に高水準の関税が対米輸出品にかかる状況には変わりがない。
トランプ関税が日本の国内総生産(GDP)を下押しする懸念は大きい。日本のサプライチェーン(供給網)を支える幅広い中小企業にも影響する。それが雇用悪化や賃上げの見直しなどにつながらないよう政府は万全の対策を講じるべきだ。
これまでは自動車関税の引き下げ時期が示されず、相互関税の特例も合意に反して適用されないままだった。対米投資の利益配分などでは日米の説明に差異があった。これらは合意時に確認すべきことだ。後回しにしたことで日本が有利な条件を引き出せたのかは疑わしい。

両政府は今回、日本の輸入拡大策なども明示した。防衛装備品の調達拡大や米国産米の輸入をミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で75%増やすことなどだ。だが、合意履行の際には警戒も要する。5500億ドル(約81兆6千億円)の対米投資では、米側が議長を務める「投資委員会」の推薦を受けて米大統領が選定する。日本がこれを拒めず、採算性の悪い案件を強いられることはないのか。
米国は日本の合意履行状況を監視するとしており、順守していないと判断すれば関税を再び引き上げる可能性も残されている。事実に反する対日批判を繰り返してきたトランプ氏が今後、独善的な解釈を押し付ける恐れはないか。それで合意が反故(ほご)にされれば禍根を残す。
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2025年9月7日付産経新聞【主張】を転載しています
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