参院選で与党過半数割れの大敗を招いた石破茂首相が、ようやく退陣を表明した。本来、石破首相は参院選直後に辞任していなければならなかった。猛省を促したい。
Ishiba resignation press conference

記者会見を行う石破茂首相=首相官邸(梶山裕生撮影)

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昨年の衆院選に続き、7月参院選でも与党過半数割れの大敗を招いた石破茂首相(自民党総裁)が9月7日、ようやく退陣を表明した。

参院選が終わってからも首相の座にこだわり、政治の混乱を招いた。9月に入ってからの退陣表明は潔さとは正反対で遅きに失したというほかない。本来、石破首相は参院選直後に辞任していなければならなかった。猛省を促したい。

自民は、総裁選前倒しに賛成する党所属国会議員と都道府県連が8日に書面で要求し、過半数に達すれば臨時総裁選を実施する段取りだった。

前倒し賛成を評価する

石破首相は会見で、日米関税交渉で日米の覚書がまとまったことなどに触れ、「一つの区切りがついた今こそが、しかるべきタイミングであると考え、後進に道を譲る決断をした」と語った。だが、前倒し要求への賛成が閣僚を含む政務三役や、多くの国会議員、都道府県連に急速に広がり、辞任表明に追い込まれただけだろう。

衆院選でも参院選でも大敗したのに、石破首相は責任を取ろうとせずに居座った。7日の会見でも、参院選の民意に従って辞任するという考えを示すことはなかった。

これは国政選挙で示された民意には謙虚に従うという、憲政、議会制民主主義の基本原則を蔑(ないがし)ろにするものだ。

記者団の取材に応じる石破茂首相=首相官邸(春名中撮影)

さらに石破首相は総裁選前倒しが決まるなら、大混乱が必至の衆院解散・総選挙に踏み切る考えをほのめかしていた。自党の議員への脅しは常軌を逸するものだった。

政党政治家として最もとってはならない態度であろう。これらを覆し、日本の憲政再建に道を開いたのは、総裁選前倒しへの賛意を表明した自民の議員や都道府県連である。高く評価したい。

立憲民主党をはじめとする野党は衆院で過半数を得ているにもかかわらず、8月の臨時国会で内閣不信任決議案を提出しなかった。野党からは、ここまでの政治空白をなじる声が出ているが、憲政を守ろうとしなかった野党に、このような発言をする資格があるのだろうか。

自民は立て直しが急務だ。野党は多党化し、基本政策で一致できる状況にない。比較第一党の自民は、党員投票を含めた総裁選を速やかに実施して新総裁を選び、安定政権の構築に努める責務がある。

石破首相は会見で、防災庁設立への取り組みや、能動的サイバー防御法の成立、日米関税交渉での区切りなどを政権の成果として挙げた。

だが、問題点も多々あった。たとえば、6月にオランダで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に招かれていたが欠席した。北東アジアを含むインド太平洋と欧州の安全保障は直結しており、中国、北朝鮮、ロシアの脅威への対応を訴えるべきだったのに、その貴重な機会を放棄した。

保守の立場で政策示せ

中国軍機による危険な飛行など中国の多くの問題行動にも直接抗議の声を上げなかった。

厳しさを増す安全保障環境の中、日本の安全と国益を確保し望ましい国際秩序の形成をリードする姿勢が欠けていた。

日米関税協議を巡っても、赤沢亮正経済再生担当相に丸投げのように見えた。自ら訪米し、トランプ米大統領と積極的に交渉することをせず、7月23日の日米関税交渉の一応の決着後も接触しなかった。

党是である憲法改正をめぐっては、衆院でも参院でも憲法審査会会長のポストを、憲法改正に後ろ向きの立民に明け渡してしまった。

国会運営では昨年の衆院選で少数与党になって以降、立民や日本維新の会、国民民主党など野党の協力を得るため、場当たり的な対応に終始したのは否めない。

子供が片方の親との強制的別姓となり、家族の一体感を損なう選択的夫婦別姓制度の導入でも、煮え切らない態度を取り続けた。自民を長く支え続けた保守層が愛想を尽かしたのもやむを得まい。

政治の混乱は首相のみならず自民執行部にも責任がある。自民は危機的な状況にある。総裁選に名乗りを上げる自民議員は保守の立場を踏まえ、外交安全保障や経済政策、憲法改正などで具体的政策を語るべきだ。政府報告書に沿った皇位継承策の実現は極めて重要な課題だ。

2025年9月8日付産経新聞【主張】を転載しています

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