
果樹栽培への転換を果たした風景(葛城奈海氏提供)
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公益社団法人「国土緑化推進機構」が主催し、国内外の緑化支援に活用される「緑の募金」。その事業審査会委員として使途確認のため8月中旬、タイ北部山岳地域の村々を訪ねた。同地に暮らすモン族は、1960年代のラオス内戦で逃れてきた少数民族だ。
特定非営利活動法人シャンティ山口事務局長、佐伯昭夫氏(80)の案内で、同法人が「緑の募金」を活用・支援している現場へ向かった。

トラックに揺られながら途中の村の至る所で目にしたのがトウモロコシ畑だ。2000年代中頃から欧米の生物化学メーカーが遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの種子を大量に販売。セットだったのがGMトウモロコシ以外の植物はすべて枯らす強力な除草剤と、それなしにはGMトウモロコシが実らない肥料だった。
貧困にあえぐ農家には利益の出る「おいしい話」だったため、栽培地確保のために森林が伐採され、はげ山が広がった。地力が衰えた山は大雨が降ればあっという間に表土が流出し、下流で洪水が多発。農民たちも呼吸障害などに悩まされるようになった。
その様子を見た佐伯氏は、農業センターを作って実験を重ね、マンゴーやリュウガンなど土地にあった果樹を見つけ出し、苗木を育てて村人に配った。その結果、佐伯氏がかかわった村の約8割の世帯がGMトウモロコシから果樹栽培への転換を果たしたという。「緑の募金」で果樹栽培を支援するのは初のケースで、当初は議論があったようだが、新たな「前例」を作った英断に敬意を表したい。


佐伯氏は別の村で5キロ離れた谷からの導水作業を村人とともに行い、生活用水を確保した。業者任せでは壊れたときにお手上げだが、自ら作ったものは修理も自前でできる、費用もかからず作業を通じて共同体の絆が強まると聞き、感じ入った。
昭和天皇が「宣戦の詔書」ならびに「終戦の詔書」でも記された「万邦(ばんぽう)共栄の楽しみを偕(とも)にする」とは、こういうことなのではあるまいか。昭和100年、終戦80年の8月に、異郷で大御心(おおみこころ)を体現する日本人に出会えたことに感慨を深くした。
筆者:葛城奈海(かつらぎ・なみ)
防人と歩む会会長、皇統を守る会会長、ジャーナリスト、俳優。昭和45年、東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。近著に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社新書)。
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2025年9月4日付産経新聞【直球&曲球】を転載しています
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