
「プポンピュア」を開発した「センツフェス」の尾崎まみこ社長(南雲都撮影)
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神戸大発のベンチャー企業「センツフェス」(兵庫県宝塚市)が開発した「赤ちゃんの頭の匂い」を再現した香水が話題を呼んでいる。神戸大の名誉教授で、同社の尾崎まみこ社長(70)のアイデアと化学的な分析が実を結んだ商品で、今年6月に販売を開始した第1弾は翌月には完売するほどの人気ぶり。SNSでも「懐かしい匂いなんだろうな」「『癒やし』の香水が生まれた」と好評だ。
「懐かしさ感じる」香り
香水を噴霧すると空中に漂うのは、フローラルな匂いとかんきつのようなフルーティーな匂いが入り交じった香り。爽やかながらしっかりとした重さも感じ、言い表すのが難しい香りになんとも不思議な気持ちになる。
昨年10月に長女を出産した大阪市浪速区の女性会社員(31)は、香水の匂いに「今は長女の匂いは変わってしまっているけれど、どことなく懐かしさを感じる香りだ」と優しい笑顔を浮かべた。
香水は、センツフェスが今年6月15日に発売した「Poupon pure(プポンピュア)」(税込2970円)。「赤ちゃんの頭の匂い」を再現したという珍しさが話題になった。
神戸大大学院教授時代、アリの行動の基盤となる敵・味方フェロモンについて研究していた尾崎さん。ある時耳にした児童虐待のニュースをきっかけに、「赤ちゃんのいい香りを思い出して落ち着けるものがあれば」と考え、商品の着想を得たという。

赤ちゃんの頭の匂いを分析
尾崎さんらの研究チームは浜松医科大の協力を得て、新生児の頭の匂いをストレスなく採取する方法を開発。生まれて1時間以内と数日後の新生児計5人の頭の匂いを分析し、その中に含まれる37種類の成分を特定して令和元年に論文を発表した。
さらに約20人分の新生児の頭の匂いを分析したところ、全員よく似た匂いがすることを発見。特に、花のような匂いの成分「ノナナール」が多く含まれていたという。尾崎さんは「子育ては大変だが、赤ちゃんがこの匂いを自分で作って、『大事にしてね』というメッセージとして出しているのかもしれない」と推察する。
分析したデータを基に匂いを再現し、複数人に嗅いでもらったところ、脳内の特定領域が活動し「快い」や「ずっと嗅いでいたい」などといった気持ちにつながることも分かった。
「ここからがスタート」
尾崎さんは神戸大を退職後、令和5年に同社を立ち上げた。「母親だけでなく父親も含めたどんな人にでもこの香水を楽しんでほしい」といい、同居していない祖父母に孫が生まれたときの贈り物などにも良いと提案する。
プポンピュアは入手が困難な状況が続き、同社は12日からクラウドファンディングを開始、プポンピュアや尾崎さんが描いたオリジナル絵本なども返礼品にラインアップされている。
将来は一人一人の子供に合わせた香水作りや、他のメーカーの商品とのコラボも考えたいと話す尾崎さん。プポンピュアを見つめ、「みなさんの手の上に乗るところまでやっと来た。ここからがスタートですね」とほほ笑んだ。
筆者:前原彩希(産経新聞)
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