手足がけいれんする様子などから「ゾンビたばこ」とも称される国内未承認の鎮静剤「エトミデート」の乱用が沖縄県を中心に広がっているとして、警察当局が摘発を進めている。
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厚生労働省=東京・霞が関

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国内未承認の鎮静剤「エトミデート」の乱用が沖縄県を中心に広がっているとして、警察当局が摘発を進めている。危険ドラッグであるエトミデートを巡っては、成分を含んだ液体(リキッド)を電子たばこで吸引して摂取することが多く、手足がけいれんする様子などから「ゾンビたばこ」とも称される。沖縄では高校生が摘発される事態にも発展。米国でのフェンタニル禍が話題となる昨今、薬物乱用は日本でも脅威となっている。

全身麻酔手術や内視鏡検査などに使われる鎮静剤のエトミデート。海外では医療現場で広く活用される一方、日本国内での製造や販売は承認されていない。

エトミデートは、脳の中枢神経に働きかけて神経の働きを強く抑える効果がある。一方で、副作用も深刻だ。意識混濁や手足のしびれ、ホルモンを分泌する副腎の機能障害を引き起こす恐れがあるという。

厚生労働省や捜査当局などによると、ここ1年ほどでアジア圏を中心に悪用が広がり、今年に入ってからは沖縄県内で蔓延しつつあることが確認されている。「笑気麻酔」などと呼ばれて流通しているという。

指定薬物「エトミデート」を含有した電子たばこ用カートリッジ(沖縄県警提供)

県警によると、5月以降、県内の10~30代7人がエトミデートの所持などで摘発された。乱用者は10~20代の若年層が中心とみられ、摘発者の中には高校生も含まれていた。捜査からは、Xなどで購入者を募り、秘匿性の高い通信アプリで手続きが進められている状況が浮上する。

厄介なのは、普通の電子たばこを使用しているだけにみえる摂取方法だ。一見しただけでは違法行為として判別できず、露見を免れている可能性がある上、乱用者の罪悪感を薄めているとも指摘されている。

事態を重く見た厚労省は5月、エトミデートを医薬品医療機器法が定める「指定薬物」とした。また、厚労省九州厚生局と県、県警、地元税関も同月、「『買わない、使わない、関わらない』ようご注意ください」などとする注意喚起の文書を公開。県警組織犯罪対策課は「SNSの投稿などが確認された場合、関係機関と連携して取り締まっていきたい」としている。

筆者:内田優作(産経新聞)

「今後拡大する可能性」

元近畿厚生局麻薬取締部捜査1課長 高濱良次氏

エトミデートは香港やシンガポール、台湾などアジア圏で横行していたものが、地理的に近い沖縄へ流入したものと考えられる。他都道府県への影響は限定的な状況だが、今後拡大する可能性も否定できない。

昨今の日本国内へのエトミデートの流通経路は判然としない。沖縄県内での検挙事例も交通事故の取り扱いや他の薬物事件の捜査など、偶然に端緒となったものが主だ。いまや違法薬物は反社会的勢力でなければ取引できない時代ではなく、素人がSNSを通じて買い手にも売人にもなれる状況であることが解明を難しくしている。使われ方の変遷も激しい。近年横行するエトミデートや大麻リキッドには注射痕が残る覚醒剤使用者らのような特徴もなく、通常の喫煙者と外見上は変わらない。関係機関の緻密な捜査が求められる。

蔓延の芽を摘むためには、周囲の人の異変を察知した場合に警察などに連絡するなど、一般の人の協力も不可欠だ。沖縄県外の関係機関についても「うちは関係ない」と考えず、網を広げて情報収集することが肝要といえる。

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