
日銀の植田和男総裁
This post is also available in: English
日銀が金融政策決定会合で、かつての大規模金融緩和時に購入した上場投資信託(ETF)を市場で売却していくことを決めた。
売却ペースは簿価ベースで年間3300億円程度である。同様に不動産投資信託(REIT)も売却する。
日銀がETF購入で株価を支えたことはデフレ脱却に一定の効果もあったが、適正な株価形成などの市場機能を歪(ゆが)めた弊害もあった。金融政策を危機対応型から平時に戻す過程で売却を進めるのは首肯できる。
ただし、株価には注意を払わなくてはならない。ETF売却で株式市場の需給が緩むと株価下落の懸念がある。日銀の決定後、日経平均株価の下げ幅は一時800円を超えた。
植田和男総裁が決定会合後の記者会見で「市場の安定に配慮し、柔軟性も確保する」と述べたのは当然だ。

売却が相場の攪乱(かくらん)要因とならないよう市場動向を見極め、状況に応じて売却ペースや規模を見直す丁寧な政策運営に徹してもらいたい。
日銀は異次元緩和を終了した昨春からETFの新たな買い入れを停止し、その後、処分のあり方を検討してきた。日銀はETF購入とは別に銀行が保有する株式も購入していたが、その売却は今年7月に終わった。このときの知見を踏まえて今回のETF売却を決めたという。
足元の株価は連日のように最高値を更新しており、ETFを売却しやすい環境ともいえるだろう。問題は日銀保有のETFが3月末時点で簿価37兆円もの巨額さであることだ。今回のペースで全てを売却するには単純計算で100年以上かかる。
その間の経済動向や市場環境を現時点で見通すことは不可能だ。日銀には長期にわたり、政策運営の手足が縛られることがないよう機動的にETF売却を進める責務がある。
一方、決定会合では政策金利を据え置き、追加利上げを見送った。トランプ関税がもたらす経済の不確実性を踏まえた判断だろう。米国では雇用悪化リスクの高まりを受けて利下げが決まった。それが米国のインフレを加速させないか。米連邦準備制度理事会(FRB)がトランプ政権の利下げ圧力に屈せず冷静に政策運営できるかどうかは日本経済にも大きな影響を及ぼす。その点を十分に見極めることも重要だ。
◇
2025年9月20日付産経新聞【主張】を転載しています
This post is also available in: English