働く高齢者の労災の防止対策を事業者に求める改正労働安全衛生法が2026年4月に施行されることを踏まえ、厚生労働省が事業者向けの新たな指針を検討している。
aging 64 yr old onion farmer hyogo

35度近い炎天下でタマネギを収穫するスタッフたち=7月11日、兵庫県姫路市=7月11日、兵庫県姫路市

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働く高齢者の労災をいかに防ぐか。そのための対策を事業者に求める改正労働安全衛生法が令和8年4月に施行されることを踏まえて、厚生労働省が事業者向けの新たな指針を検討している。

就業中のケガなどには命にかかわる事例もある。そのリスクは高齢者ほど大きい。改正法は事業者の対策を努力義務としたが、努力で済ませず具体策を確実に講じるべきだ。安心して働ける職場環境の整備を促すため、分かりやすい指針づくりを求めたい。

雇われて働く人のうち60歳以上は2割に満たないのに、業務中のケガなどで4日以上休んだ人では3割を占める。背景には加齢で進む身体機能の衰えがあろう。安全に働ける環境を整えて、高齢者の働く意欲を削(そ)がないようにする必要がある。

水素ステーションで働く派遣社員。派遣する高齢社は安全対策に力を入れている (高齢社提供)

人口が減少する中で高齢者雇用を促進することは経済活性化につながる。働く人が増えれば社会保障の持続可能性も高まろう。企業には、職場の環境改善は生産性を向上させる取り組みの一つと捉えてもらいたい。

労災の発生率を5歳刻みで見ると、男女ともに「50~54歳」から平均値を上回り始める。高齢男性では墜落・転落事故が目立ち、高齢女性では転倒による骨折などが多い。

作業場で水をまきながら掃除をしていた60代の女性が、濡(ぬ)れた床で滑って転倒し、骨折したケースや、脚立に上って蛍光灯を交換していた60代の男性が転落して捻挫したケースなどが報告されている。

高齢者には筋力やバランス機能の低下、視力や聴力などの衰えがある。骨折しやすく治療が長引く傾向は、個人差はあっても高齢者に共通するものだ。

事業所単位ですぐに着手できることは多い。手すりや滑り止めの設置、段差の解消、明るさの確保、滑りにくい床材の導入などは、仕事に慣れていない若者の事故防止にも有効だ。働く人の意見を聞いて作業工程の見直しを急ぎ進めてほしい。

当人が加齢に伴うリスクを認識することも重要である。厚労省は転倒しやすさを測るチェックリストを示しており、その活用を図りたい。事業者は測定結果をもとに高齢者を排除するのではなく、代替業務の提案などで高齢者が活躍できる場を確保すべきだ。労災防止には職場全体の取り組みが求められる。

2025年9月19日付産経新聞【主張】を転載しています

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