自民総裁選で、5候補による論戦が始まっていが、北朝鮮による拉致事件への言及、熱意や怒りの発露が物足りない。拉致被害者の奪還について、もっと活発な論戦を求める。
Kaoru Hasuike abductions

講演する帰国拉致被害者の蓮池薫さん=さいたま市浦和区(松本健吾撮影)

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自民党の総裁選が告示され、5候補による論戦が始まっている。だが北朝鮮による拉致事件への言及、熱意や怒りの発露が物足りない。それは、昨年の衆院選や今夏の参院選でも同様だった。

選挙は政治家の意思を示す絶好の機会である。それがこの体たらくでは北朝鮮に、日本はもう、拉致問題への関心がないのだと、誤った印象を与えることになる。拉致被害者の奪還について、もっと活発な論戦を求める。

拉致被害者の救出を求める国民大集会であいさつをする石破茂首相=東京都千代田区(松井英幸撮影)

ただでさえ石破茂首相は、従来の持論である日朝間の「連絡事務所」設置案をめぐり、「時間稼ぎに利用されるだけ」などとして拉致被害者家族らの反発を買っていた。政府・与党と被害者家族が一体感を欠けば、国民総意の怒りを北朝鮮にぶつけることはできない。

平成14年に帰国した拉致被害者の蓮池薫さんは20日、埼玉県内で講演し、「問題を動かす原動力は世論。国民は北朝鮮を絶対に許さないという気持ちを持ってほしい」と訴えた。政治家はその先頭に立つべきである。蓮池さんは講演後の取材で、政府に対して「当事者意識が感じられない」とも指摘した。

今年2月、拉致被害者、有本恵子さんの父、明弘さんが96歳で亡くなった。被害者の「親世代」で存命なのは、横田めぐみさんの母、早紀江さん、ただ一人になってしまった。その早紀江さんも89歳である。親子の再会へ、残された時間は少ないと言わざるをえない。

蓮池さんは先の講演で「早紀江さんが生きているうちにめぐみさんと抱き合えてこそ、日本は北朝鮮の求める経済支援などに応じる」と述べ、「時間がないというのは、北朝鮮にとってもそうだ」と強調した。

産経新聞のインタビューに応じる横田早紀江さん=川崎市(酒巻俊介撮影)

早紀江さんは石破首相の退陣表明時、「大事なことをしないまま、代わってばかり」と心情を吐露していた。めぐみさんの弟で家族会代表の拓也さんは、「体制を早急に立て直してほしい」と求めていた。総裁選の5候補には、こうした家族の思いに応える責務がある。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は21日、非核化要求を放棄するなら「米国と会えない理由はない」と述べた。頭越しに米国にのみ向けられた金氏の目を日本と拉致問題へ引き戻すための方策をこそ、5候補は熱く論じ合うべきである。

2025年9月24日付産経新聞【主張】を転載しています

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