国際パラリンピック委員会は、ウクライナに侵略しているロシアの国内パラリンピック委員会に対する資格停止処分を全面的に解除すると決めた。来年のミラノ・コルティナ冬季パラリンピックにロシアは国として出場でき、国旗や国歌の使用も認められる。
Ukraine Paralympics Russia War

北京冬季パラリンピックの開会式を前に、横断幕を掲げて反戦と平和を訴えるウクライナ選手団=2022年3月、北京(ウクライナ・パラリンピック委員会提供、共同)

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悲惨な戦禍を、どうとらえているのか。この決定には到底、承服しがたい。

国際パラリンピック委員会(IPC)は、ウクライナに侵略しているロシアの国内パラリンピック委員会(NPC)に対する資格停止処分を全面的に解除すると決めた。

来年3月のミラノ・コルティナ冬季パラリンピックにロシアは国として出場でき、国旗や国歌の使用も認められる。来年2月に同地で開催される冬季五輪はロシア選手について、個人資格の中立選手としてのみ参加を認めており、両大会で対応が分かれる形となった。

ロシアNPCの会員資格を問う総会の投票では全面停止、部分停止とも否決された。IPCのパーソンズ会長は「総会のメンバーによって決断は下された。私の責務は決定を実行に移すことだ」と述べた。

ウクライナ・パラリンピック委員会のスシケビッチ会長=4月、キーウ(共同)

ウクライナはボイコットも辞さない構えだ。同国の外務省は「ロシアのテロや殺人を助長する恥ずべき決定だ。戦争が終わるまで、ロシア選手と国旗を国際大会から排除しないといけない」と訴えた。ビドニー青年スポーツ相も投票でロシア側が賄賂をばらまいたとの見方を示し、「良心とパラリンピックの精神はいくらで売り渡されたのだろうか」と非難した。

ロシアによるウクライナ侵略直後に開催された2022年北京冬季パラ大会では、IPCがロシア選手の中立選手としての参加を容認すると発表したが、ウクライナなど各国の反発を受けてこれを撤回した。同年11月のIPC総会でロシアNPCの無期限資格停止を決定し、部分的な処分緩和を経て昨夏のパリ大会では国旗、国歌を使用しない個人資格の中立選手としてのみ参加を認めていた。

北京冬季パラリンピックの開会式で平和を訴えるIPCのパーソンズ会長=2022年3月、北京(共同)

今後はロシアNPCを資格停止にしている各競技の統括団体の対応が焦点となるが、その前にIPCは、決定理由を投票結果に丸投げせず、自らの立場を明確にすべきだ。パラ大会は、戦傷者のリハビリをルーツとする。IPCは侵略を強く憎む団体であってほしい。

現時点で資格停止を全面解除する根拠となる戦況の変化はない。戦闘は続き、民間人を含む死傷者数は増え続けている。

北京の前例もある。日本を含む各国NPCは、決定の撤回に向けて動くべきだ。

2025年10月2日付産経新聞【主張】を転載しています

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