MEGAドン・キホーテ渋谷本店(©JAPAN Forward by Kenji Yoshida)
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コロナ禍を経て、日本を訪れる外国人観光客の数は急速に回復している。日本政府観光局(JNTO)の統計によれば、今年9月までに訪日した外国人旅行者は3,000万人を突破し、前年同期比で17.7%増と大幅な伸びを記録した。
この回復の波は経済全体に広がり、宿泊業や外食産業、小売業など幅広い分野に新たな活力を吹き込んでいる。
なかでも、インバウンド需要を巧みに取り込み、ひときわ存在感を放っているのが総合ディスカウントストアの「ドン・キホーテ」だ。
「訪日客数は全体的に伸びており、特にコロナ前と比べて欧米客の増加が目立ちます」。こう語るのは同社インバウンドサポート部責任者の秦基記氏。
ネオンがきらめく店先、迷路のような通路、圧倒的な商品数で知られるドン・キホーテは、いまや単なるディスカウントストアの域を超え、文化的ランドマークへと進化を遂げている。
東アジアからの観光客が医薬品や実用品を中心に購入する一方、欧米の旅行者はキャラクターグッズや「日本らしい体験」といったコト消費を求める傾向が強いという。

浅草や渋谷をはじめ、すべての店舗で地域特性に合わせた商品構成や売り場づくりを行っている。「現場の裁量で品揃えやレイアウトを柔軟に変えられるのが当社の強み」と秦氏は説明する。
インバウンド対応も多岐にわたる。訪日客の多い店舗では多言語対応スタッフを配置し、免税手続きを簡素化。荷物が増えた場合でも安心できるようキャリーバッグの販売も行い、イスラム圏の旅行者向けにハラルコーナーを設置するなど、多様な需要に応えている。
また、同社オリジナルブランドは、インバウンド戦略の重要な柱となっている。森永製菓や人気コスメブランドとのコラボを通じ、他社にはない独自のラインナップを展開。日本文化の魅力と遊び心を巧みに融合させた商品は、外国人客の高い支持を集めている。

海外での発信にも余念がない。7月、ソウルで韓国コンビニ「GS25」とのコラボによるポップアップストアを開催した際には、大きな反響を呼んだ。
「韓国にはまだドン・キホーテの店舗がないため、"ドンキが来た"という盛り上がりがありました」と、秦氏は振り返る。現地ではオリジナルブランドを前面に打ち出し、来日時に使用できるクーポンを配布するなど、日本への誘客にもつなげた。

こうした取り組みは、同社を運営するPPIHが8月に発表した長期経営計画「Double Impact」とも呼応する。2035年6月期に売上高4.2兆円、営業利益3300億円の達成を掲げる計画で、インバウンド事業は成長戦略の中核に位置づけられている。
しかし、訪日客の需要が増加する一方、競争は一層熾烈を極めている。他社との価格競争に加え、品揃えの豊富さをめぐる商圏内の争いもあり、売上を伸ばすには創意工夫が欠かせない。

その一環として今期、同社は「餅つき体験」や「日本の食品試食」といった日本文化を体感できる催しを導入し、単なる買い物を超えた"文化体験"の場へと進化させている。
現在はメイン店舗での試行段階だが、今後は本格的な拡大を見据えている。
「日本に来たら必ずドンキに行く」——―そんな言葉を合言葉に、ドン・キホーテは世界の旅行者の記憶に残る新型リテールを目指している。
著者:吉田賢司(JAPAN Forward記者)
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