探査船に搭載された来年1月のレアアース試掘で実際に使用する無人探査機(SIP/JAMSTEC提供)
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先端技術品に欠かせないレアアース(希土類)を巡り、官民で中国に依存しないサプライチェーン(供給網)の構築を急いでいる。経済安全保障の観点から中国による輸出規制が脅威になっているためだ。政府は2026年1月に日本最東端の南鳥島(東京都小笠原村)沖でレアアースの試掘に着手予定で、米国と開発で協力する方針も示された。ただ、自力確保に向けた道のりは遠く、調達先の多角化など地道な取り組みが続く。
水深6000メートルから
「試験を着実に進めることだけを考えている」
南鳥島周辺海域でのレアアース試掘に向け、政府主導のプロジェクトを統括する内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の石井正一プログラムディレクターはこう語る。
探査船で水深約6千メートルからレアアースを含む泥を引き上げるという世界初の試みだ。使用機器は勝手が違う海外製で、生産技術を独占する中国の協力も得られない。「一発成功は難しいかもしれない」と不安も見せる。
引き上げた泥は別途、レアアースと分離した上で精製実験を行う。
順調に進めば、27年2月に1日当たり350トンに上る大規模掘削システムの実証に移行し、埋蔵量や経済性を評価したい考え。埋蔵量は「世界需要の数百年分」との見方もあるが、SIPは「産業的規模の開発が可能な量」との表現にとどめている。より希少な「重希土類」が豊富に分布しているという。
「自力確保、簡単でない」
生産量で世界シェアの約7割を占める中国は、他国との交渉材料にレアアースを利用している。直近でも欧米側と生じた軋轢(あつれき)を受けて輸出規制を断行し、日本の自動車メーカーも生産停止に追い込まれるなど世界中に悪影響が波及した。

脱中国を目指す高市早苗首相は今年10月、米国とレアアースなどの供給確保に向けた協力に関する文書に署名。共同投資などを進めるための閣僚級協議を設置する。南鳥島沖の開発でも米国との協力方針を示し、具体策を検討するという。
民間などによる調達先の多角化も緒についてきた。双日が10月下旬に中国以外からは初となる重希土類のレアアースをオーストラリアから輸入。他にも海外出資事例が目立ってきている。
とはいえ、日本は需要の約6割をなお中国に依存する。政府関係者によると、供給網構築に対する中国の妨害が予想されるほか、中国からレアアースを輸入している国内企業も供給停止を恐れ、協力に尻込みする可能性があり、「自力確保は簡単ではない」と漏らす。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの清水孝太郎主席研究員は「割高な非中国産レアアースを買う企業はないので開発も進まない。輸出規制で巨額の損害が出ることを考えれば、官民で市場を支えることも長期的に考える必要がある」と話す。
筆者:福田涼太郎(産経新聞)
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■レアアース 地球上の存在量が少ないか技術的な理由などで産出量が少ないレアメタル(希少金属)の一種。日本語では「希土類」。全17種類のうち、より希少な種類は「重希土類」と呼ばれ、分布が中国に偏在している。電気自動車(EV)の製造に不可欠で、需要が高いジスプロシウムやテルビウムなどがある。これらを含む7種類について、中国は4月に輸出規制を発動した。
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